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劇が始まるまで、俺はクラスメイトたちがいじりにいじったこの演劇を、果たして誰が見るんだろうと疑問に思っていたのだが………… 実際、始まってみて驚愕した。 客席として用意していた椅子は満席。その後ろの空きスペースには、立ち見客まで出るほどの集客力だった。 そこまでしてまでこの劇を見たい人全員に、問いたい。 ……君たちは、一体何が目的なの? 舞台に立ちつつ、役を演じつつ、台詞を言いつつ、俺はずっとその疑問を抱えていた。 「緑の肌だからって何?見た目なんか関係ないわ!あなたの力は本物よ!」 渡辺が、結構ノリノリで演じてる。台詞には凄く熱が籠ってる気がする。動きも、やたら大きい。大袈裟すぎるほどに。 生徒たち観客が見た目超可愛い渡辺に歓声を上げているから、それが後押しにもなっているんだろうな……。 「あなたを否定する皆は、私が友達として許さない!」 「……ぁありがとう。あなたみたいな素敵な友達がいるなんて、……私は幸せ者ね」 やたら盛り上がる観客と、ノリノリの渡辺に圧倒されて控えめな演技になったことは見逃してほしい。 「あなたに降りかかる理不尽な苛めにだって、私は一緒に立ち向かうわ!」 ……ん?……何?そんな台詞無かったじゃん……ぁ、アドリブ!? 「……え……?」 「私だけじゃないっ。クラスの皆が、あなたの味方よ!」 ちょ、ちょっと渡辺!?アドリブばかりぶっ込んでこないでよ!確かに俺の役は苛められてる役だけど、味方は渡辺の役だけで、それ以外は苛めっ子だよ!俺がアドリブにアドリブで返せるほど演技に余裕あるとでも!? 「あぁありがとうっ。あなたは見た目が美しいだけじゃなく、心まで美しいのね」 「あなただって、その心には……穢れがないじゃないっ」 現実か芝居か判断のできないアドリブを終えて、台詞を無駄に溜めて言った渡辺に、観客は謎の歓声を上げた。 ……なんだこれ。俺は一体何をやらされているんだ? そんなこんなで、渡辺と俺が友情を確かめ合うシーンは、よく分からない盛り上がりに包まれた。 そして物語は、妙な熱気に包まれるなかクライマックスへと進む。 ……渡辺のせい……じゃない、おかげで、盛り上がっていた観客たちのテンションは、多分一番の目的だったシーンで最高潮に達した。 俺にとっては凄く嫌。仮面あってよかった。 藏元が俺に告白するシーンへと突入する。 この空間の空気が既に意味不明。さっさと終わらせよう。 舞台の真ん中で、向き合う。 「私はこれから─……」 さっさと終わらせようとする俺の台詞を遮って、突然藏元は俺の目の前に跪いた。 はっ!!?何してんの!?君までアドリブいれるつもりですか!?これ生徒向けの公演だからって台本無視しすぎじゃない!?ふざけすぎじゃない!? 跪いた藏元は、俺を見上げるとゆっくりと告げてきた。 「俺は、君が、好きなんだ」 「…………ぇ゛え?」 ……………んな台詞無かっただろうがぁああぁぁあああぁああっ!!

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