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台本の台詞を無視してアドリブぶっ込んできたくせに至って真剣な表情で俺を見上げている藏元に、俺はなんと返していいのか分からず舞台上でフリーズした。 「君はとても優しくて、賢くて、気高い。そんな君がとても魅力的で、そんな君だから、俺は好きになったんだ」 「きゃあああっ!!王子ぃいいぃい!!」 「やばいかっこいいやばい!!」 観客の生徒たちが絶叫に近い歓声を上げている。もう血吐いて倒れるんじゃないかって心配になるくらいの熱量の観客たち。 王子様発言をアドリブで言えるなんて、こいつまじやべぇな……。 「ハハハ……何を仰っているのですか……」 アドリブにアドリブで返せるほどの演技能力なんてない俺は、どうにか台本の台詞に戻そうと試みる。が、藏元はお構いなしにアドリブ演技を続行する。 「確かに俺なんかじゃ、不釣り合いかもしれないけど……」 「は……?」 不釣り合い……?それはこっちの台詞だし……。お前が俺に思うことじゃない。 「でも、それでも、好きになってしまったから……君が応えてくれるなら、俺は一緒にいられるよう頑張りたいんだ」 しんと静まり返る劇場内。 台本通りでも、即興でも、今この瞬間は俺が藏元に、告白に対しての返答を言うんだろう。 藏元は、回りは一切気になっていないんだろうか。先程からずっと、俺だけを見上げている。 ……いや、俺は台本通りやるぞっ。藏元がどう喋ろうが、俺は台本を大切にして、台本通りいくからなっ……!? 緑の仮面を片手で撫でて、自分が思っていたよりも不安な声で台詞を言う。 「…………皆が言うように、私はこんな見た目よ……?それをあなたは、少しも気にならないと言うの?」 ……待て待て。俺の声めっちゃ震えてるけど……なんで俺が不安なんだよ?俺は台本通りやってんだぞ?不安になるべきはお前だよ、藏元! 「……俺は、」 頼むから……頼むから台詞に戻ってくれ。俺の不安はどんどん膨れているんだ……これ以上不安にさせないでくれ。 俺の願いをよそに藏元はゆっくりと立ち上がると、まさかの、俺の想像を遥かに越える行動をとってきた。 ゆっくりと伸びてきた藏元の手は、俺がつけている仮面に触れると、全く違和感のない自然な手つきで俺の仮面を取ってしまった。 一応言っておくが、ここで仮面をとるなんて勿論台本にはない。 「!!!?」 「正直に言うと…………俺は、成崎の全部に惚れてる」 「……は……はぁ!!?おま、いや、あのっ……“成崎”って、違う!一体誰のことですかね!?」 おいおいおいおい!!今演劇中ですから!!実名出すなって!!アドリブで済んでた勝手な台詞も、実名出しちゃったら単なる暴走になるだろ!! 「……な、ぁにを仰っているのですかさっきからぁ!」 「…………」 多方面から来る視線に恐怖しか感じなくて必死に通常の演劇に戻そうともがいていたら、藏元に両手を握られた。 「こんなに好きになれたの、初めてなんだ」 「ちょ……」 「回りから否定されてたことも分かってるし、辛い思いをさせたのも分かってる…………」 繋がれた手から、藏元の震えが伝わってきた。 あの藏元が、震えている。 この告白は、茶番じゃないのか……。本気で、言っているのか。 「今の俺じゃ全然至らないけど…………お願いします。これから先も、俺と、付き合ってください」 どっと湧いた観客たちは、一瞬にしてその歓声を沈めた。俺の返答に、耳を澄ませたのだ。 「…………」 「…………はぁ」 俺なんかの応えに、こんなに集中されてもな……。華もねぇし、感情移入も出来ないだろ。 第一、俺がここで応えたとして、この演劇はどうなんの?どう回収して終わるの? そこまでちゃんと算段つけてアドリブ言いまくってたの? ……後処理のこと、俺は知らんからな。 「…………俺こそ、……よろしくお願いします」 「……!!!」 真剣だった瞳に、キラキラの光が宿って、藏元は大袈裟と言っていいほどの、あの眩しい笑顔をつくりました……ちくしょーイケメンかっこいいむかつく。 鼓膜が破れそうなほどの大歓声が巻き起こって、俺がその光景に圧倒されていると渡辺の声で“語り”が流れた。 「─こうして、ふたりは愛と魔法の力で困難に立ち向かうのでした。…………おしまい」 ………………はぁ!!!? 拍手喝采のなか、暗転して無理矢理に終わらせたこの公演に、不満爆発なのは俺だけか!?皆こんな演劇でいいのかっ!!? 現状ほとんど納得できないなか、未だ感じる手の温もりにだけは、これでよかったんだと思えた。

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