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「……っ……」
肩から回された腕はぎゅっと体を引き寄せてきて、背中で藏元の体温を感じる。風呂から出て結構経つのにまた全身が火照りだす。
藏元が耳の近くに顔を寄せてきたことを感覚で察して、さらに体が強張った。
「……あ……の……」
「……何?」
「…………」
どうする?何て言う?いっぱい、たくさん、話したいこと聞きたいことは山程あるのに……
この状況じゃ思った言葉を思った声色で全く思い通りに話せない!
取り敢えず、その、ちゃんと話せるようにっ……
「……ふっ……」
「……ん?」
「ふふっ、ぁははははっ!ごめん成崎、そこまで緊張しなくていいよ」
「…………!お前っ!」
藏元は自ら離れると俺の表情を見ては笑いだした。
……こいつ、俺のリアクションで遊んでやがった!
「体強張らせ過ぎ。ふっ……くく」
「ほんとお前っ……そういうのやめろ!藏元は慣れてるんだろうけど、俺はっ」
「別に慣れてるわけじゃ……。……可愛かったよ、成崎」
にっこりと楽しそうに微笑んだ藏元に、遊ばれっぱなしの俺は少し反抗したくなった。
……お前だけ楽しいとか……俺だけ恥かくとかそんなのっ…………。
……いいよ、俺だってな……俺だって……
「俺は……そういう事慣れてないから……テンパってばっかりで……、ごめん……」
「……ぁ……いやっ、成崎?違うんだ、俺はその、続きは求めてなくて、ただビックリした顔を」
楽しそうな声から一転、焦ったように誤解を解こうとする藏元に、心のなかでニヤリと笑う。
「でも俺だって…………俺のできることで藏元に応えたくて……」
「できる、こと……?」
「…………」
「……何?」
「……ご、はん…………今、作ってるから…………一緒に、……」
「っ……」
仕返しなのに、言ってる自分がめっちゃ恥ずかしくなってきた。
吹き出しそうになる顔を俯かせ、笑いを我慢する震える声を絞り出す。
「藏元……一緒に……どうですか……?」
「…………」
あーやばい。台詞が恥ずかしいし、何より俺の低レベル演技に爆笑しそう。どうしよう。
だが意外にも、藏元は易々と引っ掛かってくれた。
「……ありがとう。さっきは、笑っちゃってごめんね?でも、俺は本当に成崎のビックリする顔が見たかっ」
もう、無理。
「…………ぶふっ!」
「……え…………ぁ……ちょっと、」
「ごめん藏元ぉ、そこまで畏まらなくていいよっ……なはははっ!」
限界だった。
してやったりと大爆笑する俺に、藏元は呆れ顔でため息を吐いた。
「嘘だろ……それは酷いでしょ」
「さっきの、藏元がやったやつと変わらねーっつの」
「いや、成崎のは狡いよ」
「はぁ?一緒だし」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
無言で見つめあうこと数秒、藏元は片手を差し出してきた。
「?」
「……仲直り、でいい?」
「…………ん」
別に、からかいあっただけで、喧嘩したつもりはなかったけど……
俺は藏元のその手を握り返した。
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