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「謙遜?」
「藏元は、スタイルも顔も良くて、頭良くて運動できて、ノリも良くて愛想も良くて、料理……は出来ないけどそれはギャップで良くて、つまりは完璧な王子様だろ?」
人参を切りながら、藏元に当てはまる言葉を並べていく。
「亜美さんと藏元が並んだとき、誰が見ても絶対、俺と同じことを思った筈だよ」
「…………」
「俺なんかより、亜美さんといたほうがお似合いだって」
「えっ……ま、てよ……成崎、そんなこと思ったの?」
「普通思うだろ。完璧な王子様の藏元の隣には、美人の亜美さんが理想だって。……そのほうが、」
ながら会話、を装って平然と話を進めようとした。人参を切る手は止めない。
でも言葉は無理だった。
我慢してたのに少しだけ、震えた声を出してしまって、不自然なところで言葉を切ってしまった。
「……隣が、女の子のほうが、今後の不安もない。だから……今のうちに……」
「……今のうちに、……何?」
静かに問われて、一瞬怒られてるのかと思った。
「…………別れるべきなのかもって……あの時は思った。ごめん」
「あの時は?ってことは、……今は?」
「今も思ってたら、あの劇の時に逃走してたよ……」
「!じゃ、その、あれはちゃんとっ」
「……宮代さんに、少しだけど、最近までの藏元のこと聞いたんだ。俺のために色々無理してくれてありがとう」
「ぁそこで生徒会長の名前出てくるんだ」
素直にお礼を言ったつもりだったのに、余計な名前を出してしまったらしい。眉を寄せた藏元は少し不満そうだ。
「えぇー?そこ突っかかりますぅ?」
「ちょっと妬きそう…………というか、無理なんかしてないし」
「してるだろ。風紀委員長に関わった時点で無茶苦茶。だから、俺ばっか不安がって別れようとか考えて、ほんとごめん……。頑張ってたのは藏元なのに」
「成崎のためなら、無理なんかしてないよ。俺がやりたくてしてるんだから」
「…………ひゅー。かっこいいですねーー」
「棒読みすごーいあはははっ」
さらっとかっこいいこと言われて照れ隠しで誤魔化した。
俺はいつになったら、藏元の不意打ちの甘い言葉に慣れるんだろうか。藏元のことは好きだけど、藏元のせいで寿命縮んでそう。
「成崎」
「ん?」
「好き」
「っ……」
ほら、まただ。
「俺、成崎のこと凄く好きだから、不安にさせるし不安になるけど」
「なにっ……急にどうしたっ」
「俺を選んでくれて、ありがとう」
「……ぁあああのなっ、俺が話したい話ってのはこれとはまた別にぅんっ──!?」
ちゅ ちゅる
「っ、……!?」
何の前触れもなくキスしてきた藏元は、唇を離して微笑むと手元の人参を指差した。
「空腹が限界だから、ここから先の話は作り終わってからにしよ?」
「っ……」
なんだよその勝手な提案!!何ニヤニヤしてんだよ!?今のキス必要か!?包丁持ってたんだぞ!?危ないかもって一瞬でも思わなかったのか!?
「…………………………藏元、」
「何?」
「………………、ありがとう」
「……嬉しすぎて、叫びそうどうしよう」
知らん。
聞こえないフリをして玉ねぎのカットに取りかかった。
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