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一口大にカットした材料と肉を、鍋のなかでグツグツと煮込む。具に火を通しているだけで味はまだ付けていないのだけど、この段階でもう既にいい匂いがする。
藏元はずっと空腹だと言っていたからだけど、俺も漂う匂いに誘われてそれなりに空腹を感じてきていた。
「めっちゃいい匂いする。お腹減った」
「もうそろそろだから、もうちょっと待って」
鍋を覗き込んでくる藏元が少し幼く見えて、可愛いななんて思ってしまって、それがまた笑えてくる。
味付けに必要な醤油やみりんを取り出しながら、鍋を眺めている藏元に他の作業をお願いする。
「ご飯とスープ、盛っといて」
「了解」
味付けして後少しだけ蓋をして煮込む。その間も藏元は言われた作業を黙々と進める。
ご飯とスープ、箸をテーブルに並べ終え藏元が隣に戻ってきた。
「あとは何すればいい?」
「んーじゃあ……味見して」
「ぇいいの?」
「ん」
小皿に汁を取って藏元に手渡すと、ふぅふぅと少し冷ましてから小皿に口を寄せた。
……なんだ、その仕草っ……なんだその横顔。普通の動作なのにっ……誰でもやってる筈の動きなのにっ…………!
イケメンの技かてめぇええっ!くっそかっこいいぃいっ!
キッチンカウンターに握り締めた両手をついて、視線をそらした。
「……ふふ。成崎の料理だもん。美味しいよね」
「……そうすか」
だもんじゃねぇよ。こっちは味見をお願いしたんだよ。濃いとか薄いとかしょっぱいとか甘いとか、そういうこと聞いてんだよ。誉めてほしくてやってもらったんじゃねぇよ。よね、とか知らんわ。別に、照れてねぇえしっ!喜んでねぇぇえしぃい………!!
「……成崎?」
「……ん」
「どうしたの?」
「なんでもない」
「なんでずっと下向いてるの?」
「特に意味はない」
「美味しいよ?」
「わかったよ」
「……あの、まだ食べられない感じ?」
「……もう終わったから、さっさと食べよう」
「やった。嬉しい」
「うるさい」
「えぇ!?なんで!?」
突然の理不尽に驚く藏元だけど、俺は視線は会わせないまま取り皿に完成した肉じゃがを盛り始める。
盛った皿を受け取りながらも困った顔をしてる藏元に、ため息を吐いて呟く。
「言い過ぎも、良くないと思うんだよ……」
「……?」
「軽い奴に思われるぞ」
「……ぇ、……あはは、そういうことか。でも嘘は言ってないよ?」
「それをやめろって言ってんの」
「……でも、言わないと安心できなくて……」
「……言って、安心……すんの?」
「俺の自己満足だけど」
テーブルに向かいながらそう言って微笑む藏元に、少し考えてしまう。
口に出さなきゃ伝わらないのは普通で、藏元は軽い奴なんかじゃないって知ってるわけで、じゃあ藏元が素直に言ってくるのは何の問題もないわけで……
「…………」
「……成崎?」
となると、素直に言われて困るのは俺のほうなんだ。
だって、ただ恥ずかしい。
耐性がないから、藏元が言えても俺が言えない。俺が応えられなかったら、一方通行になるだけで……
「…………あ。もしかして、何か言わないととか、思ってる?」
「……いや、まぁ……近からずも遠からず」
「えぇ?何?」
俺がモゴモゴと歯切れ悪く喋るから、藏元は笑いながら俺の顔を覗き込んできた。
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