264 / 321
264
「…………」
「……クスッ……そういうところも、大好きだよ」
「!!?」
「頑張ってくれてるって、凄く伝わってるから」
嬉しそうに話ながらテーブルの前に座った藏元に続いて俺もその隣に座る。
「伝わってるって……それも恥ずかしいんだけど……」
「ぁでも、俺よりも先に生徒会長に甘えるのは……ちょっと話し合いたいな」
「甘っ……そんなことして……る……か……?」
「いただきます」
「…………」
話題を振ってきたくせにその会話はぶった斬って、手を合わせて挨拶を済ませご飯を食べ始めた。
肉じゃがを頬張る藏元の横顔は、大袈裟なほど幸せそう。
そんなに腹減ってたんだ?それとも、肉じゃがが好物なんだろうか?
「めっちゃ美味いです」
「……そ。なら、よかった……。いただきます」
「成崎が話したいことって、ご飯食べながらでも大丈夫?」
「出来れば、食べ終わった後で」
「……じゃあ、先に話してもいい?河村とのこと」
「っ……はい。お願いします」
「ぁ全然畏まることじゃないよ?」
「そう言われても、元カノの話聞くとか、……普通緊張するっつの」
「そう?」
「当たり前だろ。美人の元カノが言うことなんて……想像するだけで怖い」
「……今手塞がってなかったらなぁ……」
「……ん?」
茶碗と箸を持つ手を見る藏元の一言が理解できず首を傾げた。
「……成崎のこと、とってもいい人だって誉めまくってたよ。この前会ったときは失礼なことしちゃったから謝りたかったって。それと出来れば、友だちになりたいって」
「だから、それは誤解なんだって」
「誤解?成崎はいい人だよ」
「ハイハイ、アリガト」
こいつ段々からかい始めてるだろ。
「……それと、…………俺と、友だちに戻れないかって言われたよ」
……うわ。聞きたくない一言だった。
「……で、その……どうしたの?」
「……俺が河村を、成崎に近づけると思う?」
「……え゛?」
「ふっ……なんてね。成崎が河村と友だちになるかは成崎次第だけど、俺は断ったよ。河村と関わることで、昔の俺に戻りたくないんだ。だから……もう会えないって、言った」
「…………」
昔の俺、というのは……うまく笑えていなかった藏元、ということだろうか。過去にけじめをきちんとつけられる藏元って、やっぱかっこいい。
そこでふと、内容とは少しズレたことを思い出してしまった。
「…………あの、さ」
「何?」
「…………亜美さんのこと、なんで河村って呼ぶの」
「……なんでって?」
「だって亜美さんは、……名前で呼んでたじゃん?なのに藏元が苗字呼びって、逆に違和感っつーか……」
「河村はみんなのことを名前呼びする子だったよ」
平然と食べ進める藏元を横目に、少し早めのペースで食べ進める俺。
肉じゃがとご飯を食べ終え、あとはスープのみ。
「っ、つ、つーきあってた、時も、そうだったのかよ?」
「……付き合ってたときは違うよ」
「だよな。……だよな、うん。」
「……ねぇ、成崎」
「……よし。納得できた。ごめんワケわかんないこと言って」
「納得って何を」
「俺もうご馳走さまですけど、藏元はゆっくり食べてな?」
スープを飲み干して、逃げるように自分の食器を流し台に下げる。
食器洗いを始めつつ、ソファーに座る藏元の後ろ姿を盗み見た。
ともだちにシェアしよう!