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「…………」
「…………」
「…………何」
「んー?」
「なんだよ」
「なんでもないよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……もうっ、こっち見んなよ!」
「えーなんでー?」
めっちゃ綺麗な顔面をヘラヘラさせっぱなしの藏元。そんな顔でずーっと見られてて、その気まずさに耐えられなくなった俺は、両手を顔の前に翳して藏元の視線を阻むように壁を作った。
朝食は食パンを焼いてジャムを添え、インスタントのコーンスープを付け足した。男子が作る朝食なんだ、これくらいの手抜きは見逃してほしい。
その朝食を向かい合って食べている最中ずっと、藏元は俺をガン見状態。何か喋っているのなら未だしも、無言でずっとだ。
イケメンの視線を真っ向から受けて、俺が耐えられる筈もない。
「用も無いのにガン見すんな!気になる!!気が散る!!」
「テレビ見てるのと一緒だよ」
「はぁ?」
「見たいから見てるんだよ」
「!!!!?」
ガードしていた俺の手を退けて、女子なら一発で卒倒しそうな甘い笑顔を向けてきた。
何こいつ!何なのこいつ!?
「俺じゃなくてっ、パンとかっ、その、ご飯に集中しろ!!」
「ふっ……はいはい。」
藏元は笑いながらも漸く手元に視線を落とした。
ハイは1回でいいんだよっ。笑ってんじゃん、俺の意見全然納得してねぇだろっ。軽い冗談みたいに流しやがって!お前の視線の威力分かってんのかよ?!イケメンムカつくっ!!つーか藏元がムカつく!!
怒りをぶつけるように食パンにかぶり付いて、藏元から視線を反らして食事を進めていると聞き慣れない音楽が鳴り出した。
「?」
「ごめん。電話だ」
どうやら藏元の携帯電話の着信音だったらしい。
「もしもし……ぁ、うん。…………へぇ!そうなんだっ…………うん、一緒にいるよ」
「?」
「……あはは、そうだね。……うん、分かった。ありがとう」
「……」
食事の手を止めて電話する藏元を、コーンスープを飲みながら盗み見る。
空いた片手で何気無く首に触れた藏元を、何の疑問も無く格好いいと思った。
「……うん。……うん、了解。……うん、じゃあまたね」
電話を切った藏元は俺に向き直るように座った。
「ご報告、だった。」
「ん?」
「昨日の打ち上げの最後に、それぞれの部門の優秀賞が発表されたんだって」
「……あー……景品あるやつか」
「うん」
すっかり忘れてた。だって貰えると思ってないし。関係ない話だと勝手に記憶から消していた。
「B組、獲れたってさ」
「へー………………ぇB組?……て、俺ら?」
「うん」
「嘘だろ」
「ぁでもね、髙橋のクラスも同票で優秀賞らしくて、ふた組が景品貰うことになるから景品の豪華さは想像より劣るかもって言ってたよ」
「同票って凄いな……そんなことあるんだ。景品は別に、そもそも貰えると思ってないから、レベルは気にしてないよ」
「ぇ思ってなかったんだ」
「一般公開は知らないけど、生徒向けの公開は……あれ、演劇じゃなかったじゃん。普通獲れると思わないだろ」
「……そ、……そうだね。成崎が参加した劇は、俺の一世一代の─」
「掘り返すな。皆まで言わんでも伝わるから」
藏元もそれなりに恥ずかしいのか、それ以上は何も言わずにコーンスープに手をつけた。
……ふたクラス分の景品か……なんだろうな。食堂の貸し切りとか、届け出不要で外出の自由とかかな。期限は付けられるだろうけど、そういうのだったらいいな。
眼中に無かったと言いつつも、獲得した景品に密かに胸を踊らせた。
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