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あと数分でチャイムが鳴る時間、俺はいつも通り計画的に教室に向かっていた。 最近の朝は少し寒くなってきたから、ガゼボに持っていく飲み物もそろそろ温かい物に変えようか、なんて考えながら上履きに履き替え廊下を進む。 欠伸をしながら教室のドアを開ければ、2Bの生徒たちが次々に挨拶してきた。 俺は挨拶をなるべく返しながら自分の机に向かう。そこへ、数人の生徒が追いかけるようについてきた。 「ぇ、あの、おはよー成崎くん」 ……?なんで戸惑ってるの? 「はよー」 「ぇ?なんで?なんでいつも通りなの?」 「ん?……何が?」 「何がって、……なんでいつも通りひとりでギリギリに来てるの?」 「……ぇなんか、俺の仕事あったっけ?」 大事な仕事忘れてる?やべぇ、何をやってない?最近俺弛んでるな。 「違う違う!仕事じゃなくて!」 「……じゃあ……何?」 クラスメイトたちの言いたいことが分からず、俺は机に鞄を置いて数人と向き合う。 「藏元くんと!なんで一緒に登校してないの?!」 「……ん?」 「せっかく認められたんだもん、忍んでないで、見せつけるくらい堂々と一緒にさぁ!」 「いやいや……ちょっと待ってよ。俺は朝……その、予定があるし、藏元だって今日はサッカー部の朝練に付き合うって言ってたし、いきなり生活が変わるなんて、お互いに無いから」 「えーっ!?じゃあ昇降口にお出迎えは?行かないの?」 「それ必要?来る場所は一緒なんだし、俺なんかがわざわざ行ったところで」 「嘘でしょ。全然分かってないよ成崎くん」 目の前の生徒たちは大きくため息を吐いて、物凄くガッカリした表情で残念そうに俺を見た。 「……あの……さ、いくら認めてもらえたって言ってもさ、俺が藏元と一緒にいたら嫌に思う人もそれなりにいると思」 「それ以上にっ!!」 俺が横にいたら藏元ファンの邪魔になるのでは、という俺の意見は机をバンと叩いて身を乗り出してきた生徒に途中で阻まれた。 「成崎くんがいるのといないのとじゃ、藏元くんの表情が明らかに違うのっ!!」 「もうっ……なんていうのかなっ……もうっ……!」 分かんないけど、悶えるような動き止めて。ちょっと気味悪いから。 「雰囲気から“好き”が溢れてるあの感じっ……!絶対一緒にいてあげた方が、藏元くんの、藏元ファンのためなの!!」 生徒たちは力説してくれてるけど……ごめん、余計一緒に居づらくなったよ。何その恥ずかしい情報。 あいつそんなに回りから見てて態度違うの?この人たちが誤解してるだけだよね?この人たちの誇大妄想であってほしいよ。 「ていうか、登校からこんなってことは、昨日の休みも無駄に過ごしたんでしょー!?」 少し苛立ちを含んだ声で問い詰められた。 人の休みの過ごし方を、無駄だと決めつけられてしまった…… 「何してたの?ちゃんとラブラブしたよね!?それくらい当然だよね!?」 「ラッ……!?ふ、普通でございます!普通に過ごしました!本読んだり、ご飯食べたり……!」 「ぇ何、付き合って初めてのお泊まりじゃないの?本当に無駄にしちゃったの!?僕らの気遣いをっ……!!」 すごい剣幕で迫ってくるクラスメイトたちに、圧倒される。 この人たち、無理矢理俺の部屋に藏元を押し込めておいて、一体どんな期待を、何をさせようとしてたんだっ……!? 「そんな感じじゃ、ビッグニューースッ、も聞いてなさそうだね」 「……?」 「えー?流石に聞いてるんじゃない?」 呆れた皆がわざとらしく俺を見ては勿体ぶった言い方をする。 なんなんだよ、面倒くさい絡み方してきたと思ったら気になる言い方しやがってっ。ここで聞いたら負けたみたいじゃん。ニヤニヤして、チラチラ見て、俺のこと完全に恋愛初心者扱いして馬鹿にしてる……!! チクショー……こうなったら…………もう…… 「……ビッグニュースって、何のことですか教えてください」 反抗する気にもならなくて、すんなり降参した。 「……あのねぇ」 勝ち誇った顔で、たっぷりの間を置いて口を開いたクラスメイト。 そこへ、狙ったようなタイミングで、教室の扉が開いた。 「…………藏元」 「?お早う皆」

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