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誘った、とは?
何故皆が急かすように藏元に問うのだろうか。皆が藏元に注目するなか、パチクリと瞬きした藏元は微笑んだ。
「そのうちね」
「…………」
「えーー!なるべく早いうちに誘った方がいいよー!?」
「僕たちも協力するからさぁっ」
全然話が見えない。呼び止めておいて、萱の外ってか……
「……ねぇ、皆さん……」
「……ぁ」
「何か知らないけど、変な計画企てないでくださいね」
「へ、変じゃないもんっ」
「色々感謝はしてるけどさ、出来れば、今まで通りにしといてほしいんだけど。」
「それじゃ進展しないでしょー?!」
「成崎のペースで進んでたら、忽ちおじいちゃんになっちゃうだろ?」
「ずっと小学生みたいな恋じゃ藏元くんも可哀想!」
「だから俺たちが、皆で進展のサポートを!」
「君ら気持ちいいほどはっきり言ってくれるね」
俺の恋愛は幼稚だと、それじゃ相手が報われないと……?でも聞きたいんだけどさ、この学校より前の俺の事なんて知らないだろうよ?
「でもマジで、ほんとに、変な計画は却下。普通にしてください」
「…………」
「…………」
ぇめっちゃ不満そうっ!誰一人として頷いてくれないよ。むしろ余計に不満顔になっちゃったよ。言葉が足らないってこと?言葉が足らなすぎて信用できないってこと?
じっとりとした大勢の視線に押し負けた俺は控えめに呟いた。
「……俺だって少しくらい分かってるつもりだから」
「…………ん?え?」
「!?な、ななな、成崎くん!?ぇ嘘!?」
「恋したことあるのかよ!?」
「初恋じゃないの!!?」
「嘘でしょ!?ショックッ!!」
「ショック??ぇなんで?」
説得のつもりの一言が、まさかの大批判を受けてしまった。
ギャーギャーと喚くやつ、口元を抑えて絶句するやつ。
初恋だと思ってた根拠はなんなの?ショックって何?この人たちほんと意味分かんないよー謎が多過ぎるよー。
「でもほら、片思い、とかだよね?」
「多分好きかも、とか、これ好きってことなのかな?とかの……そういうレベルでしょ?!」
「お願いだからそうだよって言ってぇ!!」
「恋多き成崎なんて俺は嫌だぞ!」
……皆俺にどんなイメージ持ってたんだよ。今までの俺ってそんなに他人に興味無さそうだった?そんなに色恋沙汰に縁遠そうだった?まぁ、決して多くはなかったけど、それでもそれなりに普通のやつくらいはしてきましたよ。
……それを素直に教えてあげるほど、プライドがないわけでもないので、ちょっと意地悪することにする。
「……まぁ、その辺は皆さんのご想像にお任せしますよ」
「!!?」
「何それ!余計気になるじゃん!」
「手慣れ感出すなよガッカリだよっ!!」
「あははっ知らねーよ」
皆の反応が思いの外面白くてつい笑ってしまう。そこへ藏元が、呆れたように少し笑いながら口を挟んできた。
「はいはい。からかうのもそこまでにしなよ。で、どこか行くの?」
「んあ?……ぁ、そうだ。テスト始まるし、アイドル様方の勉強会日程を調査しに」
「……それ、まだ成崎くんがやって大丈夫?」
俺の言葉を受けて、渡辺が疑問を呟いた。その疑問は皆が共感したらしくざわついた。
「藏元くんと付き合ってるのに、他の御方の日程を探ったらその……浮気みたいに見られないかな?」
“浮気”という言葉を使うタイミングで渡辺は藏元の様子を伺うように控えめにチラリと見た。藏元がいちいち気にするやつだとは思わないけど、そこは気遣いか。
「その辺は上手くやるから大丈夫。心配してくれてありがとう」
「ううん……せっかく苛めがなくなったのに、誤解でまた何かされたら辛いから」
「…………」
しんと静まり返る教室。渡辺の意見は正しい。でも俺の調査を頼りにしてくれている人たちもいるわけで、全員が渡辺に100%賛成できる立場ってことでもないんだ。
ただ、せっかく心配してもらえてるんだ。その渡辺の気持ちを無下にも出来ない。
「…………あーじゃあ……」
だったら、あの手が一番確実で簡単だ。
「情報仲間というか、……そういうのに詳しい人に、今回は頼るよ」
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