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「……というわけで、色々の事情をお察ししていただき、その上でお助けいただければと思いします」 「…………」 2年C組の教室の前で腰を90度に曲げ、頭を下げて黒淵メガネの男子生徒にお願いしていた。小竹は一切表情を変えずに、頭を下げる俺をただ見つめている。 怖っ……こいつ言うこともやることも怖いのに……無言が一番怖い。何か言ってくれ。断るならさっさと断りの一言言ってくれ。 いや断られたらそれはそれで困るけど、それでもこの無言からは逃れられる。 「…………いいぞ」 「………………Really?」 「なんで英語なんだよ」 「ぁごめん。動揺というか……いえ、とにかく、ありがとうございます」 まさかすんなりオッケーが出るなんて思ってなくて信じられなかったんだよ。絶対何か条件を出されると思っていたから。 「あの人と、付き合い始めたんだろ?」 「…………oh……」 すんなり、はあり得なかった。 「だからなんで英語なんだよ」 「いえ……」 「俺にとっては凄く嬉しいことだ。成崎にはこのまま成功してほしいから俺の出来ることはしてやるつもりだ」 小竹のいう成功とは……一体何を示しているんだろうか。絶対8割くらい妄想混じってるだろ。 「生徒会なんてど真ん中だったんだけど……同級生も超有りだよな。やっぱこの学校じゃ風紀委員は難易度高すぎたから諦めたけど、同級生でもなかなか難易度が」 「…………」 相変わらず、小竹の言語は殆んど理解できない。ブツブツと独り言なのか俺に言っているのか分からないその呟きは、後半のほぼ全てを聞き流した。 「じゃあ日程のほうなんだけど……副会長様と風紀委員長様以外なら分かってるんだ。それでいいか?」 「流石だけど、……ちょっと意外。小竹でも情報掴めてないなんて」 「アンテナは張り巡らせてるつもりなんだけどな」 「まぁ風紀委員長様はやらないだろ。今までもやったことないし」 「確かに」 小竹は会話しながら手帳に日程のメモを書き込み、そのページだけ破くと俺に差し出してきた。 「本当助かります、ありが」 「なぁ、成崎」 「……なんでしょうか」 「教える代わりに、俺も教えてほしい」 出た出た来た来た。やっぱりね…… 「どっちから告白したんだ?」 「…………」 「それくらい教えてくれてもいいだろ。ずっと考えてたんだぞ、成崎のこういう将来を」 「恐ろしい思考っすね……」 ニヤリと笑う小竹に悪寒がした。趣味と好奇心を、現実の人間に当てはめないでほしい。 「教えてくれたらこれ、あげるよ」 ヒラヒラと紙を揺らして俺を追い込んでくる小竹、やっぱ陰湿。 「……ぉおお互い……ですよ」 「…………な」 「……」 「そんな答え予想してなかったっ!!!」 「え゛……?」 「押されに押されて、その押しに負けてだと思ってた!!それがお互い惹かれ合ってだって!?なんだその甘い展開!!最高だっ!!」 「!!?…………────隙ありっ!!」 何に興奮してか、騒ぎだした小竹が周囲から嫌な注目を集めはじめた。 もう耐えられない、こんな空気!というかもうこいつに関わっていたくない!! 小竹からメモ用紙を奪い取り、俺はその場から猛ダッシュで逃げ出した。

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