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動揺が再びやってきた。
藏元が、今回のテストから勉強会を開くらしい。
それが小竹のメモに書いてあった。あの小竹がその話題をつついてこなかったのは謎だが、そこは今気にしてもしょうがない。
今は、目の前に本人がいて、その本人から誘いを受けているんだ。
まずはここから問題を処理して……
「…………」
これから話す内容こそ筆談にしたいのに、プリントの裏はもういっぱいいっぱい……。仕方ない。授業用ノートを使うか……。
ノートの新しいページを開いて藏元への返事を書いていく。
“なんで急に勉強会やることにしたんだよ?”
書いたノートを藏元の方へ滑らせた。藏元は読んだあと暫し考えて、その下にサラサラと書いてはノートを滑らせて戻してきた。
“約束なんだ”
「…………」
……誰と?どういう理由でそんな……。……ぁ。
“認めてもらうかわりの、条件?”
無言で微笑んだ藏元。
これは肯定だ。
俺との関係を認めてもらう代わり、ファンから提示された条件なんだ。藏元はそれを、もしかしたらそれ以外にも、条件を呑んでいるのかもしれない。
「……ごめん……」
藏元は勉強会なんて望んでいないと思う。それなのに、俺のせいで……
「なんで謝るの?」
「……?」
藏元の綺麗な瞳は、純粋に優しく微笑んでいる。
「確かにこれは約束だけど、俺のやりたいことでもあるんだよ」
「……」
気を遣われているのか?まさか藏元がわざわざファンと関わりたいなんて言うと思わなかったから。
「……前にも言ったけど、」
“テスト中も、一緒にいたい”
「!!」
書かれた言葉に、んなこと言われてねぇよ!と思わず言いたくなったが……いやいや待てよ。それに似たことは過去に言われている。藏元は以前、自分が勉強会を開けば来てくれるか?と俺に言ってきた。
それを今回、実行したということか。
「…………」
「参加、してくれる?」
「……」
イケメンが真っ向から真剣な眼差しで見つめてくる。
藏元がたくさんたくさん頑張ってくれたから、俺には断る理由がもう無いんだろうな……。
“行けると思”
「ねーねーおふたりさーん」
「!!!!」
ベシィーッ
内心照れながら返事を書いていたら突然声を掛けられ、筆談していたノートを勢いよく閉じて隠した。……俺の不審行動のせいで、隠したことにはならないか……。
「ちょお、怪しすぎるよ成崎くんっ。さっきからずっと、ふたりして何してたの?」
「イヤホン共有してクスクス笑い会ってる辺り、見てるこっちが恥ずかしくなるー」
「ななっ、なんもしてない。そっちの用は一体何ですかっ?」
第3者から見て、変な光景というよりイチャついてるように見えてたなんてとんでもなく恥ずかしい。俺は誤魔化すようにニヤニヤするクラスメイトふたりの用件を煽る。
「あっ、用は特に無いんだけどね」
「……は?」
「僕らももう帰るから、教室には藏元くんと成崎くんふたりだけになっちゃうじゃん」
「……うん?」
「……」
「……」
何故か無言になるクラスメイト。ふたりは目を会わせてから俺と藏元にニコッと笑ってきた。
???……帰るから、何?放課後だし、皆帰っちゃってるのは普通じゃね?
「…………俺たちもそろそろ帰るから、心配しないで」
俺が理解しないなか、ふたりに返答したのは藏元だった。
……心配?下校時刻のこと?
「ぁあははーだよねぇ藏元くんだもんね!」
「じゃあ僕らはお先にー。また明日ー」
「うん、また明日」
「??じゃーなー……?」
また俺だけ置いてきぼりの会話だった。クラスメイトたちはいなくなったけど、今も分かってない。
「……どゆこと??」
「……ノート、写し終わった?」
「まだだけど……。いや、藏元が邪魔してきたんじゃん」
「ぁごめん。手伝うよ」
「いいよ、あと1ページくらいだし」
「じゃあ、それ終わらせて俺たちも早く帰ろ?」
「おぅ…………あのふたり、何のこと言ってたの?」
ノートの写し作業を再開しながら俺は視線を落としたまま藏元に聞いた。
「……狼に気をつけて……、てことだと思うよ」
「…………」
馬鹿にしてんのかと顔を上げれば、いつも通り微笑んでる藏元。少し考えてすぐにノートに視線を戻した。
「……いくら学校の敷地が広くても、狼はいねぇだろ」
「……」
「夜になるとフィールドに召喚されます、とか?それなら面白いけど」
そんな俺好みのファンタジー的要素が現実に存在する筈がない。
大方、暗くなる前に帰れってことなのかな。あいつら突然先生みたいだな……。
自己完結してノートを書き進めていると藏元が大きくため息を吐いた。
「こういうところでファンタジーか……困ったな…………」
「……ん?」
「……なんでもない。」
「…………」
頭を抱えて俯く藏元はその後、俺がノートを書き終わるまで黙ったままだった。
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