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去年までの俺なら、今の俺なんか絶対想像出来なかっただろうな。 数日後の放課後、ついに俺は藏元の勉強会開催場所である図書室に向かって廊下を歩んでいた。 藏元に一緒に行こうと誘われたのだが、丁度学級委員の仕事があったためそっちを片付けてから行くことにした。 ……仕事があったのは本当だけど、藏元ファンが待ち構える場所に藏元と一緒に行くことに……単に気が引けたって理由も少しあったりする。勉強会に行ったことがないから噂でしか知らないけど、勉強会の席争奪戦は凄まじいらしいから、参加者の席がある程度決まって落ち着いた頃に行けるのならそれがベストだ。 係の仕事があって遅れていったほうが、遠い席に座る理由にもなるだろうし。 静かな廊下を進んでいくにつれ、ほんの少しだけ人の声が近づいてくる。 そして、とうとう、図書室の扉の前に到着した。 普段の図書室なら割りと好きなんだけどな……。 「ふー……よし……」 控えめに気合いをいれ、(精神的感覚から)超重い扉をなるべく静かに開けた。 「…………!!?」 図書室に入った瞬間、見えたその光景に驚愕した。読書や勉強のために設置されているテーブルスペースがほぼ満席で、1クラス分くらい生徒が集まったんじゃないかと思うほどの人数だった。 なんだ、何なんだこの光景……!?勉強会って、こんなに凄い規模なの!!? つか、こんなに人いたら逆に集中出来ないだろ!?一番遠い席の人、その距離じゃ絶対藏元と話せないじゃん!それなのに参加してんの!?勉強会って、せいぜい7~8人じゃない??3倍近くいるじゃん! 分からない!!俺には全然理解できない!! 一体何の意味があって彼らはそこまでっ…………まぁ、いいや。考えるのやめよう。俺にはどうせ分からない世界だ。取り敢えず、参加するという約束は果たしたんだし、ひっそりとこの時間をやり過ごそう。 藏元の席から一番遠い、残っていた端っこの席に座って周囲と馴染めるよう気配を消した。 ……が、隣に座っていた男子が、俺を見るなりギョッとして信じられないものでも見たかのように二度見してきた。見た目は可愛い童顔の子なんだけど、リアル二度見を見てしまった俺としては笑いそうになってしまったのが本音。 二度見って、なんでこんなに面白いんだろうね。 笑いを堪えていることなんか知る由もないその男子はオロオロと焦りだし、突然挙手をした。 「す、すぃ、すいませぇえんっ!!」 想像より遥かにデカい声を上げてその男子は立ち上がると、皆に示すように俺のほうを見た。 「こ、こちらにっ!藏元様のっ…………!!」 瞬間、30人近くの視線が一斉に俺に向けられた。 この人っ、なんてことをっ……!!皆気付いてなかったのになんでわざわざ挙手なんかっ……!!いじめか!?やっぱりまだいじめは続いてんのか!!? 「成崎」 「!!?」 俺が愕然とするなか、この集団の中心に座っていた男が立ち上がり、こちらに向かって手招きしてきた。 こ、これはっ……敵の罠かっ!? こういう、優しく微笑みながら手招きしてる奴は、大抵が裏切り者という……── 「早く行ってください!!」 「ぐっ!?」 無駄な想像を膨らませていたら、挙手した男子に思い切り背中を押された。 君、案外力強いのね……むち打ちするかと思った……。 強烈な視線を一身に受けながら、仕方無く藏元のところまで歩く。 「…………何かご用でしょうか。」 「なんで敬語?」 「環境順応」 「……?……ぁ、成崎の席はここだよ」 「……え゛?」 藏元に示された席は、藏元の隣の席だった。 ……マジで? 争奪戦はこの席抜きでやったわけ?じゃあ俺が遅く来ても関係無しだったわけ?嫉妬や憎悪が俺の知らぬところで溜まっていってるよ……。 勝手に溜まるのなら、運かお金かポイントがいいよ。

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