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「ぇ……遠慮……しておきまーす」 「えっ、ちょっと」 両手を前に突き出して後退れば手を掴まれて、それだけで周囲が湧いた。 やめろぉ……やめろー。目立ってるからーっ…… 「私めは後ろの席で充分ですので、この席はもっと、必要とする方に」 「そんなに離れてたら、俺が誘った意味が無いんだけど……」 「しかしですねぇ、私は普段からお会いしていますし、この機会を待ちわびた方はたくさんいらっしゃると思うのでその方々にお譲りするほうがこの場を有効活用してくださると」 「頑固だなぁ……」 「……藏元様には言われたくないです」 呆れて笑う藏元を不満な目で見上げる。周囲が何やらずっとコソコソと盛り上がっているが藏元とやりあっている今、意地になっている俺には関係無かった。 頑固?お前まだ俺のことそう思ってたの?そっちのほうが頑固だろうが。さっきから手を引き戻そうとしてんのに、掴んでる藏元の手の力がどんどん強くなってるし。ちょっと痛みすらあるし。どう考えても藏元のほうが…… 「取り敢えず、ここは成崎の席だから。」 「私の話聞いてました?」 「うん。成崎の主張はよく分かったよ」 「じゃあここは譲るべきだと思いませんか?仮にも遅れてきた俺がっ」 「でもここは、成崎の席だから。」 「そんなの誰が決めたんですかぁ!」 「皆だよ」 「皆とは?!」 「だから、皆だよ」 「……ハハハ、またまた、ご冗談を」 「本当だから」 「…………まじ?」 「まぁ、俺が望んでなかったわけじゃないけど……」 「……」 「ここを成崎にって、空けてくれたのは皆だから」 「…………藏元様はこの席について、本当に何も言ってないのですね?」 「すごい疑うね……ていうか、そろそろ敬語、やめてくれない?」 あははと笑った藏元に、少しだけ抵抗する力を弱めた。 がしかし、それを狙ったように手を引かれ、一気に至近距離になると耳元で囁かれた。 「敬語も新鮮で可愛いけどね」 「!!!?」 反射的に藏元の胸を突き飛ばした。 「お前ほんと!!馬鹿にしてんだろ!!?」 「あはははっ顔真っ赤だね」 「──んのっ!!俺で遊ぶな馬鹿元!!」 「あれ?敬語は?」 「うるっさい!!誰が敬うか!!」 「成崎が面白いリアクションするから、からかいたくなるんだよ」 「結局馬鹿にしてんじゃねぇか!!悪ふざけも場所を考えっ……て…………ぁ。」 しんと静まり返る空間。 ぉお俺はっ大罪を犯してしまった!ファンの前でアイドル様を拒み、突き飛ばすなど禁忌そのもの……!! 「……どうしたの?」 「どうしたって……」 ついカッとなって……いつも通り藏元に怒鳴ってしまった。どうしようこの空気……今からでも藏元に謝罪…… 「すごい……」 「あんなに、あんなに笑うんだっ……!」 「可愛いお姿っ……拝見できたぁ……!!」 「じゃれる藏元様っ激レアっ!!」 ……はい?? 俺の想像とは裏腹に控えめに、静かに、でも盛り上がっているファンたち。 ……なに?この反応は一体……? 「……?」 「とにかく、座って?ね?」 「……絶対逃がす気ないだろ」 「うん」 「即答かーい」 掴まれている手は一度も緩むことはなく、俺に逃げる隙を一切与えてくれない。 もうこれ以上藏元にいいようにいじられたくないので、降参した俺は嫌々ながらその席に座った。

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