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席に着いたとき強烈な視線を感じて、思わずそちらを見た。
その視線は俺とは反対側の、藏元の隣の席。ガン見してくるその生徒は、東舘さん程ではないけども、なかなか綺麗な顔立ちの生徒だった。
……こういうところで比較対象として名前を出すと、俺が東舘さんを美人代表だと思っている証明になっているようで非常に悔しいのだがっ……
いやとにかく、美人寄りなその人は俺をガン見した後、藏元に憧憬の眼差しを向けた。
「藏元様、そろそろ再開してもよろしいですか?」
「ぁはい」
当然のように藏元を“様呼び”してる。ここは宗教団体ですか?藏元は教祖様にでもなったのですか?
「あの……せめて、成崎の前では様呼びやめてくれませんか……?」
藏元は気まずそうにその人に呟いた。
……藏元が、敬語だ……
「これは僕たちのルールですから。僕が破るわけにはいきません」
「…………」
「…………?」
なんだこの人……模範のファンであるべきだみたいな、まるで藏元ファン代表…………えっ、そういうこと!?だ、だって、だって!!
だってこの人、隣に座ってるし!!!!
「……成崎、紹介しておくね」
藏元は周囲にはバレない完璧なつくり笑顔を貼り付けてその人を手で差した。
「3年の、境 孝明 先輩」
「さ、ね゛っ……!!?」
先輩!!?マジで!!?藏元って3年からも人気あんの!?3年にはあれだけ顔面精鋭が揃ってんのに!!年下か?年下好きなのか??……藏元に、年下要素あるか?見た目も振る舞いもしっかりしてて年下感はまるでない気がするけど……
「なんでしょうか」
「え……?」
「人の顔を見たまま百面相するのは失礼だと思います」
「ぁす、すみませんっ……えっと、俺は2年の成」
「知ってます。あなたは随分有名ですから」
……有名?……俺が?……は?いつから?どこから?どうして?どういう意味で?
「藏元様と付き合っているのなら、もっと毅然としていてほしいですね」
「……ん?」
「隣に座りたくない等と、それこそ僕らにとって気分のいいものじゃない」
「いや、俺は」
「藏元様の優しさに甘えすぎていると思います。あなたも、それなりに応えるべきだと」
「境先輩」
説教?抗議?みたいなことを饒舌に話し出す境さんに、藏元が少し強い口調で止めに入った。
「皆の統率は、境先輩にお願いしましたけど、成崎を縛ることは頼んでません」
「……でも、」
「成崎にルールを強いることは俺が許さない」
「……すみません。出過ぎた真似をしました。以後、気を付けます」
静かに頭を下げた境さん。藏元からファンの統率を任されたということは、境さんがファン代表なんだろうな。そんなリーダーならルールを誰よりも重んじて遵守するんだろう。それだけ、藏元を崇拝してるってこと。
「……気にしないでね」
「?」
「成崎はいつも通りでいいから」
「あー、……俺は大事だと思うよ、ルール」
「やめろ」
「!」
境さんの意見も一理あると思って、フォローするようなことを言えばピシャリと遮断されてしまった。
「成崎が成崎らしくいられないのなら、俺はそんな場所いらない」
藏元の一言に俺も境さんもギョッとして目を見開いた。藏元の後ろで、俺に向かって全力で首を横に振っている境さん。振りすぎてもげないかちょっと心配になるほどだ。
いやしかし、俺がルールを肯定したような発言をしたから藏元の変なスイッチを押してしまい、こんな状況に陥ったんだ。
ここは俺が鎮めるべきか……!!
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