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「……どうしよう……」
いや、どうしようじゃない。この番号に掛けるしか俺には選択肢がないので掛けることには変わりないんだ。
問題は、掛けて第一声、何と発するか。常識であれば、掛けた側が受けた側に「(私は)誰々と申します」と名乗るのが当然だ。
ただ、今の俺の手持ちの情報では電話する目的は疎か、相手が誰なのかさえ分かっていない。電話を掛けた奴が第一声、「あなたは誰ですか?」なんて不自然極まりない電話だ。不審電話過ぎて相手に切られる可能性だってある。
……ぇでも、切られた場合、それって俺のせいか?いきなり説明もせずやれと言ってきたあの人のせいなのでは?一応保身のために掛けるけど、その後のことは俺のせいじゃないよね?
心のなかで葛藤しつつ、メモした番号を画面に打ち込む。
「一体誰なんだよ……」
呼び出し音を耳にしながら、誰に言っているわけでもない独り言を呟く。そして何コール目か、ついに電話が繋がった。
「……ぁもし」
「すぐるくんですか?」
「!」
電話向こうのその人は、俺が名乗る前に俺の名を呼んだ。
あの人から事前に言われてたのか?俺が電話するって。しかし、少し舌足らずなこの声どこかで……
「は、はい。成崎優です。えっとー……塚本さんから電話するよう言われたのですが」
「おれっおれは、亮介です!」
「……りょー……?」
リョースケ……りょうすけ……
「あっ弟くん??」
「おれですっ」
元気に返事をするその子に、漸く記憶と声が一致した。文化祭で迷子になってたあの子か。
「そっかそっかー。元気だったかー?」
「うん!元気だったー!」
子どもの声は空気を明るくするなぁ……。でも文化祭の一時の関わりだったのに、……何故その子と俺が電話なんか?
「すぐるくん、あのね、にぃちゃんがもう言っちゃったと思うんだけどね」
「うん?」
全然何も、不足過ぎるほど何も言われてないよ。
「おれ、もうすぐ誕生日がくるんだっ」
「へぇーそうなんだ」
「うん、それでね、あのね、誕生日会にすぐるくんも来てほしいんだ!」
「…………はい?」
「ほんとに!?」
「あぁあいやいや違う違くて」
「……だ、だめ?」
「えっと……ぁー……なんで俺?」
亮介くんの誘いに素直に喜べない俺。
だって、あの人の弟だぞ。この子がどれだけ純粋だろうと、いや純粋故に、兄の企みの指示のもと誘っているとしか…………あっ!!
“断れ”
あの命令はこの誘いを断れってことか!
ということは、この誘いは本当にこの子の気持ち…………でもそしたら益々、なんで俺?
「前に、にぃちゃんに教えてもらったんだ」
「?」
「本当に大切な人は、お父さんお母さんに紹介するんだぞって」
「!!!!??」
何変なこと教えてんだよお兄様ぁあぁああぁあっ!!!弟くんっそれは完全に意味をはき違えてるよぉっ!!
誤解させて、けれども否定もできず、その誤解を解く役割を俺に押し付けたんだあの人っ!!ほんと最低だっ!!!
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