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「んー……と……それは多分、俺のことじゃないかもなぁ……」 「?すぐるくんは大切だよ??」 「ぁありがとう亮介くん。でもね、親に紹介するのは、例えばぁ……好きな子、とかね」 「すぐるくんはおれのヒーローだもん。大好きだよ?」 ぐぅっ!!純粋無垢無敵!! 「それに、すぐるくんはおねえちゃんだもん。お兄ちゃんだけど大好きだよ」 「あーえーあれはそのぉあの時だけ女の子になってみただけで、今の俺は男であって、好きとはまた違うって言うか……」 文化祭の女装がこんな混乱を招くとは思ってもみなかった。 そしてこんな素直な子から意味は違えど好きと言われると、まんざらでもない気持ちになってしまい、はっきり断言してやれない。 「……すぐるくんは、キライなんだ……」 「!!そういうわけではっ」 亮介くんの声が震えだした。 “泣かすな” あのルールを破ったら、俺は人生を退場することになるだろう。 どうするどうするどうする!? 「亮介くん、あのねっ!?嫌いじゃないよ!?ほんとに!!」 「……」 「亮介くんは、優しくて素直でめっちゃいい子で、俺も─」 ガラッ 「成崎」 「大好きだよぉ……」 「…………」 「…………」 なんつータイミングで出てくるんだ藏元っ!! 廊下に出ていた時間があまりにも長かったためか、様子を見に来た藏元が扉から顔を出した。そして、少し驚いた顔のまま固まっている。 恥ずかしい発言聞かれたよな絶対……この恥ずかしい状況どうしよう…… 「……あの、藏元、もうちょっと」 「じゃあすぐるくんっ来てくれる!?」 「ぃやっあのね、ごめん、好きだけど、家には行けないかなっ。ほら、寮だから外にはっ……ぁおいっ……!!」 亮介くんを傷付けないように言葉を探しながら返答していると、藏元は無表情無言で中に戻って行ってしまった。そして耳元からも、暗い声が聞こえてきた。 「……分かった……」 「…………」 泣くまではいかずとも、落ち込んでいる。 まさか俺ごときが、子どもに愛されるヒーローになれるなんて…………信じられないし、ありがたいね。 「……亮介くん、お兄さんは誕生日会に来てくれるって?」 「……分かんない……学校のおしごとがあるからって言ってた……」 「…………」 多分風紀のことだな。あの人の性格上利に叶ってる仕事とはいえ、委員長だし、それなりに忙しいんだろうな。 「……お兄さんのこと、好き?」 「……うん。サッカー教えてくれるし、かっこいいし、優しいし、大好き」 へぇ。この子サッカーやるのか。兄があのレベルのイケメンだからな。この子もスポーツイケメンになるんだろうな。 しかし、優しいのは君にだけだよ……。 「…………あ。あー……思い付いた」 「なに?」 「俺は行ってあげられないけどさ」 「……うん……」 「お兄さんには絶対!誕生日会に行かせるから!」 「!……ほんと?」 「おぅ、任せろ。必ず行かせるから」 「へへ……ありがとうすぐるくんっ」 「じゃあ誕生日会、楽しみにしててな!」 「うんっすぐるくん大好きだよ!バイバイ!」 「うん、バイバイ」 心をくすぐる“大好き”が耳に残ったまま、亮介くんとの電話が終了した。 このとってもいい子の期待を、裏切ってはいけない!そして何よりもっ、今までいいようにされてきた分の仕返しがしたい!! あの人は弟に弱いっ! プランもあるっ! 絶対に弟くんを祝わせてやる!! これからの計画と未来を想像して、自然と笑みが溢れそうになりぐっと堪えて、俺はポケットに携帯電話を仕舞うと図書室に戻った。

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