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………………待った。え?ちょ、待って待って待って。空気に任せて、雰囲気に流されて、俺もかなりその気になっちゃって、こんなところまできちゃったけど、こ、ここから、あと、何すんの……!?藏元は確か、“最後まではしないから”って言った。あの時の藏元の綺麗な目が、とんでもなく幸せそうで、色気が溢れていて、俺だけを映していて、それだけで心臓を掴まれてしまった俺はよく考えもせず受け入れてしまったけれど……最後って、何?俺にはそこまでの経験がないから、前半も後半も、最初も最後も、全然分からないんだけど。そもそも男同士のこういう事、殆んど知らないんだよ。小竹に色々吹き込まれた時も現実逃避しちゃって聞き流してたから、方法があるってことは知ってたけど、方法の内容までは詳しく知らないんだよ。だから俺は何したらいいのか全然全く、皆目見当もつかないんだけど、藏元に身を委ねてしまってもいいんだろうか?つか、藏元だってノンケだったじゃん。俺と同じ知識量なんじゃないの? ……ん?え、違う。違う違う違う!藏元のことは信用してるし信頼してる!!この見た目にこの人格だから、恋人経験も豊富なんだろうし、普通のお付き合いなら、任せても大丈夫なんだろう……けど。……なんか、信頼と実績の藏元、みたいな、どこかの企業広告みたいになっちゃったけど、とにかく!!男同士のアレコレを流されるままに進めていいのかって話なんだよ!!しかもここ学校だし!!図書室だし!!場所もまずいだろ!!そろそろ校舎閉められるんじゃ……ていうか、見回り来るんじゃ……?藏元はそういう危機感もあった上で、こんなことしてんのか?考えられる危機に備えて“最後まではしないから”なのか? ……ぁ、あれ……?藏元はそもそも、その“最後”までを、俺としたいのか?この状況からするに、俺が完全に 下 なわけで……その……女役?と言えばいいのか言葉があってるかは分からないけど、……俺と、そこまで望んでるのか?ぶっちゃけ藏元は、女の子とは最後までできるけど、やっぱ男相手だとここまでが限界とか思ってるんだろうか?男同士の方法は、そう思えてしまうような方法なんだろうか?そして俺は、藏元とどこまでを望んでるんだ?もし“最後”を知ったとして、受け入れられるのか?もし、もしも藏元に求められたら、応えられるのか? ……もし、求められなかったら? 「……………………」 「…………成崎」 「……………………」 「……成崎」 「!ぁ何っ……!?」 「……大丈夫?……なんか、……飛んでたね」 「……ぁ……ごめ……」 「………………ごめん。疲れたよね」 「……ぇ」 「ここで待ってて。今、体拭けるようにハンカチ濡らしてくるから」 「ぇ、あ……く、藏元……?」 「廊下に出ちゃ駄目だよ?」 立ち上がって、本棚の奥へと歩いていってしまった。 ……や、やらかした……か? 何かは知らないけど、まだ行為を続けようとしてたんだ。それを途中でやめるって……俺が気を散らしてしまったから、雰囲気をぶち壊して藏元を萎えさせた……?……つか、だよな…………行為の最中に余所事考えるとかあり得ないだろ、空気読めないしやり方知らないし、……めっちゃガキじゃん俺……。優しい藏元も、流石に呆れたよな………………やばいよな……恋人、なんだし……余計なこと考えてないで腹決めればよかった。 後悔をぐるぐると巡らせていれば、控えめに扉の開く音がして、足音とともに藏元が戻ってきた。取り敢えず、椅子の上で膝を抱えるようにして丸まり、さらけ出してしまっている脚をなるべく隠した。 「お待たせ。……拭ける?」 「ぉおぅ…………な、なぁ……」 「ん……?」 「…………」 何故途中でやめたのか、聞きたいけど聞いたら俺がせがんでいるようにも思われそうで、言葉を詰まらせ黙って見上げていたら、頬を染めて気まずそうに視線を反らされた。 「成崎……怒ってる……?」 「ぇ、俺……?」 藏元のほうからそう問われるとは思ってなくて聞き返してしまった。 怒る?俺が?藏元じゃなくて?なんで俺が怒…… 「!!ぉ、おま、……ぅうう、うが、うがいっ、してきたよな!?」 「?……ぁ」 「今、ね!?してきたよね!?」 「…………うん。今してきたよ」 怒りというより、罪悪感と背徳感。全身から血の気が引いていく。俺の問いかけに、藏元は妙な間を置いて頷いた。 「ちょ……ほ、ほんとに……ほんとにした……?」 「……うん」 「……」 「……」 「……」 「……えっと……そんなことより、目のやり場に困るから、拭いたほうが」 抱えていた脚をチラリと見て困惑しつつ笑った藏元から、濡れたハンカチを受け取った。だけど、どうしても気持ちが落ち着かなくて、今出来る限り頭を下げた。 「拭いてる間に、もう一回だけ、うがいしてきてください」 「え」 「お願いしますっ」 「……いや、でも」 「お願いですからっ行ってこい馬鹿!!!」 「えぇ!?それお願いなの!?貶してるじゃん!」 「さっさと行けっ!!」 「あははっはいはい」 呆れた笑いで背を向けた藏元は先程と同じ方向へ歩いていった。 「……っ……」 ……駄目じゃん。感情に任せて、偉そうに追い出しちゃったけど……俺が言うべきことは、聞きたかったことはそうじゃなくて………… 俺に幻滅してしまったのか、聞きたかったんだ……

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