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いつもより幾分か遅いスピードで歩き、漸く寮の入り口が見えてきた。 「つか今さらだけど、勢いとノリで話が進んじゃったけどよかったのか?風紀の仕事の話」 「ぇ……うん」 「ほら、あの人意味深なこと言ってたじゃん。藏元が風紀の仕事をやる意味?がなんとかって……」 「…………」 藏元はあの人に向かって正面から意見してたから多分大丈夫だと思ってたんだけど……黙ってしまった藏元を見てちょっと心配になった。 まさか、脅されてる?弱み握られてるとか? 次の言葉をどうかけようか悩んでいたら、前向きで明るい表情を見せた藏元に少し拍子抜けした。 「まだ色々、考えてる最中なんだけどね」 「ん?うん」 「俺もまだはっきりとは決めかねてるんだけど、話がまとまってちゃんと決まったら、成崎に話す、でもいいかな?」 「……おぅ……えっと、あの人から嫌がらせされてるわけではない……のね?」 「風紀委員長の真意は分からないけど、俺は大丈夫だよ。だからもう少しだけ、待っててほしい」 「……分かった」 ……話の内容は全然分かってないけど、藏元の表情を見てて、あぁ大丈夫だって素直に思えた。無理してるとか遠慮してるわけじゃなくて、助けも心配も本当に必要としてない。なら俺は本人が答えを出すまで黙って待っていよう。 そう思えたから、これ以上風紀委員長とのやりとりを深掘りすることはやめた。 「まぁ俺としては藏元が手伝ってくれたら心強いし、ありがたいからいいんだけどね」 「それならよかった。……ていうか、前に風紀の仕事やったときに正直思ったんだよね。風紀は絶対、成崎には無理だろうなって。あはは」 「それは否めない。走り回るとか絶対無理。持たない」 「まぁ体力もそうだろうけど……塚本風紀委員長みたいに人を追い詰めるの苦手でしょ、成崎は」 「苦手というか……出来ない」 「優しいからね」 「だから、優しいとかじゃなくて……」 よく知らない人を強く責められないというか……気を遣ってしまうだけで、そこに優しさとかは持ち合わせてない気がする。 「……つーか、そう考えてみると、俺、藏元にも優しくないね」 「え?」 優しい人って多分、思いやりがあって温厚な人とかだろ? 俺、藏元に対して、思いやりの言動よりは文句とかツッコミのほうが多い気がするし、藏元といるとダラけるしサボるしふざけるし……全然温厚な人がとる行動ではない。 「……もうちょっと……ちゃんとしたほうがいいね俺」 「何を?」 「藏元に優しくできるよう努力します」 申し訳無さを交えながら半笑いすれば、藏元はパチクリと瞬きしてから首を振った。 「成崎に怒られるって、俺だけの特権でしょ?そのままでいいよ」 「……いや、怒らせないでよ」 怒られる特権なんてものがあるのならもっとマシな特権欲しがれよって思ったけど、何かしらの別な特権を要求されたらあげられる自信もないので黙っておいた。

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