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漸く寮に到着した俺たち。さすがに人目が気になるので、既に手は解いていた。 「俺買い物したいからスーパーに寄ってくよ。成崎は?」 「俺は特に無いかな」 「じゃあ、今日はここで」 「ん。また明日」 「……成崎」 「ん?」 「今日、勉強会に来てくれてありがとう」 「何……急にどうした」 「凄く嬉しかった」 「……おぅ……」 「でも、もう参加しなくていいよ」 「??」 突然の申し出に一瞬何を言われているのか分からなかった。あんなに来てほしいと言われたのに、今度は来なくていいと言われればそりゃ誰だってびっくりするだろ。 「え……と……ごめん。俺なんかした?」 「ぁううん、そうじゃなくて」 「?」 「せっかく来てもらったのに全然一緒に出来なかったから。それなのに他の人は成崎と喋れてたから……その状況がなんか不満で」 「えー……?」 なんだその理由。あの場で喋れなくてもいつも喋ってんじゃん。まぁそんな藏元も、……めっちゃ可愛いんだけど。 「しかも成崎には余計な我慢とか遠慮とかさせちゃうし……嫌な光景も見せちゃうし」 「……まぁ、藏元が言うなら、参加しないけど」 藏元が辛抱強く誘ってくれたから参加しただけであって、俺から進んで勉強会に行く気はない。これまでと同じようにひとりでテスト勉強するだけだ。 「……俺も我慢覚えないとね」 「は?」 「……じゃ、おやすみ」 「??」 我慢?何のことだよ?お前もしかしてまた…… 問い詰めようとした俺の頭を優しく撫でて、藏元は俺が何か言う前にスーパーのほうへ歩いていってしまった。 「…………」 また無理してるわけじゃないよな?今追いかけて聞くべきか?……でも普通に笑ってたし、つくり笑顔では無かったし、本人が言ってくれるまで待つべきか? 「……あんまり……問い詰めるのも……よくないよな」 そう結論付けて、俺は自室を目指して歩き出す。エレベーター近くには、食堂帰りや風呂帰りの生徒たちが溢れていた。 各々お喋りで盛り上がっているようだが、その話題はみんな同じようだ。 「めっちゃ近い席取れてさぁ!もう勉強どころじゃなかったよぉ!」 「僕なんか直接ノートに書き込んでもらったよ!」 「えー!?何それずるい!!」 「次も絶対行くー!」 たかが勉強会の思い出話に大勢がこんなに盛り上がれるなんて……アイドル様の力は本当に凄いな……。 ……あ。俺そのアイドル様のひとりとつ、付き合ってるんでした。恐れ多いことでございますね。皆さんの幸せな思い出に水を差したくないので、俺はさっさとこの場から立ち去りましょう。 気配を消してエレベーターホールを通り過ぎ、非常階段の通路へ踏み込んだとき、背後で誰かが囁いた。 「藏元様って、本当はどうなのかな?」 ……? 「え?何が?」 「今日の勉強会に参加させてもらったけど、……あの、成崎?って人、藏元様にあまり好意的には見えなかったんだよね」 …………は? 「……ぇ、まさか、」 「あっううん!そう見えただけで本心は分からないけど!あれが普段通りなのかもしれないし!」 「…………でも、もしそれが本当ならさ……」 「……藏元様、あんなに楽しそうに笑ってたのに…………可哀想だね」 「…………」 「…………」 …………え、何その沈黙。あんたらが勝手に余計な心配して、空気重くされても……。 いやいや。俺がここで出ていって弁解するほどの事じゃないだろ。こいつらが勝手に変な解釈してるだけであって別にそんな………… 背後で未だに誤解したまま進む会話を無視して階段を上り始める。 藏元と俺の空気感は俺たちだけが分かる空気感で、他人に理解されたいなんて思ってない。だから俺の態度を冷たいなんて誰かが言っても、そんなの勝手に言ってろって思うだけで…… 階段と階段を繋ぐ踊り場に着いたところで歩みを止めた。 「…………」 他人から見れば冷たいと思われるその俺の態度を、我慢するってことか…………? 藏元の言葉がより強くなって甦ってきた。

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