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「はぁー…………」
結局、一晩悩んでしまった。
朝、教室へと続く階段を登りながら同じ悩みを繰り返す。
回りの人が俺の態度を良く思えなくても、誰かに見られていると恥ずかしくなってどうしても突っぱねてしまうから、俺には今の態度が精一杯なんだ。
そして何より、相手が誰なのか、皆ほんとに分かってるのか?
俺ごときが藏元相手に、恋愛テクニックで勝てるわけないだろ。藏元は、皆が思ってる以上に、大切にしてくれるから……その気持ちを受けとることに精一杯で、俺なりに応えようとはしてみるけどやっぱり藏元みたいにスマートには出来なくて……
“藏元様の優しさに甘えすぎている”
……今思い出すなよ俺。
境さんの言葉が思い出されて、更にへこんだ。
恋人って何。付き合ってる人がとる、普通の態度って何。どういう態度をとったら皆に心配されない恋人になれるわけ?
答えなんか無さそうな悩みに突入したと自覚しながら教室の扉を開けた。
「はよー……」
「ぁおはよう」
「お、おはよう成崎くん」
「ぉはよ……成崎くん」
自分の机に向かいながら肌で感じるこの違和感。2B内の空気がソワソワしている。
この学校は噂もハプニングも絶えないからな。正直今は自分のことに集中したいけど……これまでずっと広く浅くサポートとして関わってきてしまったんだ。身勝手に、興味無いですで無視するわけにもいかないだろうな。
「ソワソワしてるけど……何かあったの?」
「…………」
「……どうする?」
「どうしよう……成崎くんちょっと疲れてるみたいだし……」
「ぇでも言っておいたほうがいいって。あとから耳に入るよりはさ……」
「そっか……だよね」
数人でそんな相談をしたあと、ひとりが1歩前に出てきて覚悟を決めたようにすぅっと息を吸った。
「ぁ、あのねっ」
「うん?」
「……実は、成崎くんが、遊びでっ、藏元くんと付き合ってるんじゃないかって、学校中で噂になってて!!」
「…………」
ソワソワの原因、俺だった。
はぁぁあぁー。めんどくさ。そうだった。この学校、そういう噂話広がるの一瞬だった。昨日あの場で弁解するのが正解だったのかぁ……。
「んーと、……あのさ……それって昨日の勉強会と関係ある噂話だよね?」
「!ぅ、うん、よく知ってるね……」
「…………えっ!?じゃあ噂じゃ無いの!!?」
「噂です。事実無根です。俺が遊ぶとか、身の程知らずも甚だしいですよ。」
「……そ、そっか…………あっ、じゃあ……」
「……?」
「藏元くんのこと、好きなんだよね?」
「…………ぇ……」
「ちゃんと、好きなんだよね?」
しんと静まり返るクラスメイトたちは、数秒のことだったのかもしれないが、ひたすら沈黙し俺の答えを待っていた。
それだけ俺は、2Bの奴等にまで心配されるほど分かりづらい態度だったのか……
「…………はい……」
「ちゃんと、言葉にしてよ。成崎くん」
ぐぅっ……!今日はなんか、やけに攻めてくるなこいつら……
「…………スー…………す、きです……」
「!!!」
「「きゃ、きゃーー!!」」
「なっ、何がしたいんだよお前らっ……!」
わざわざ言葉にまでさせたこいつらの真意が分からなくて盛り上がるクラスメイトたちに叫んだ。
生徒たちはニヤけた顔のままモーゼの十戒のように、教室の扉までの道を作るように左右に避けた。
「だってさぁ?藏元くんっ」
「…………な゛っ」
「…………」
照れくさそうに気まずそうに、そこには藏元が立っていた。
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