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ズッキーが教室に現れ、いつも通りダラダラとHRを開始する。皆がそれなりに集中してズッキーに耳を傾けるなか、俺は少し意識を反らしていた。
恋人としての態度、回りが見てもはっきりと分かるような愛情表現。でも俺がこんなポンコツだから、いきなり何かが出来るようになるわけではない………………けど。
ただ、ひとつ。
あれなら、今からでもできると思うし、回りが見ても明らかにその変化に気づくだろうし、何より、ギリギリ俺にも出来るレベルだ。
俺のなかではそれなりに重大で勇気も必要だけど、公の場でのハグや手を繋ぐことに比べたら全然頑張ってどうにかなる範疇だ。
よし、そうと決まれば、変な噂が流れている現状だし、決意が揺らぐ前にさっさと決行してしまおう。
俺の、恋愛に対する、この弱腰を克服する……第一歩!!
「……んで最後にぃ……決まったぞぉ文化祭の景品」
「おーっ!」
「何々!?何ですか!?」
「ドラムローーールッ!!」
発表を勿体ぶるズッキーは2Bの生徒たちに机を掌で叩いて発表を盛り上げるよう促す。
そのコールに生徒たちは素直に、むしろ楽しんで机を叩き始めた。ノリ良すぎだろ君たち。
……そういうところ、嫌いじゃないけどね。
「今回の景品はなんとぉおっ……!」
パンッ
ズッキーが手を叩き、生徒たちのドラムロールを止めた。
「来月の第一週の土日!附山遊園地に決定したぞぉっ」
「おーっ!」
「遊園地!何年ぶりだよー!」
「楽しみっ!」
「しかもなんとだな!遊園地だけじゃない!遊園地内のホテルに一泊だ!」
「っ!!まじですかぁ!?」
「やっば!楽しみぃ!!」
ズッキーの発表に、クラス全体が盛り上がる。ドラムロールで引っ張った意味あったね。皆大喜びじゃん。
「まぁでもな、学校自体は休みで休日はお前らのプライベートってことになるから、行くも泊まるも自由だ。あとで外出届と一緒に出欠確認の用紙配るから、それ書いて提出するように」
ズッキーは希望者と言うが、この盛り上がりようだ。大抵の奴は参加するだろうな。
遊園地行ってホテルに泊まって土日使って皆とはしゃぎ倒したいって人は皆参加するだろう。次の日の学校のために無い体力を休日で回復させたいって奴は不参加だろうけど。…………俺とか。
「つーことで成崎」
「はい」
「昼休みにでも、用紙取りに来てー」
「…………」
でしょうね。分かりきった指示が来て、返事するのも面倒になって片手を挙げて了解した。
「以上、HR終わりー。」
ズッキーがサラッとHRを締めて教室を出ていった。クラスの連中は一斉に席を立つと数人で集まって一緒に回ろうとかホテルの部屋割りがどうだとか、話題は尽きないようだ。
……だが、俺にとって今はそれどころではない。
恋人としての愛情表現というやつを、俺の第一歩を、いつ、どのタイミングでスタートさせるべきなのか。
それが今一番の最重要問題であって……
「成崎」
「んぁ?」
俺だけが席に座って頭を抱えて悩んでいたら、最重要問題に大きく関わるそいつが自ら俺の元にやって来た。
「遊園地、一緒に回ってくれる?」
「………………」
お前も行く気満々か!楽しみなのかっ!!いや、いいんだよ?イベントだし、ご褒美だし、こういうのは楽しんだもん勝ちだから俺みたいな考えより全然そっちの方がいいんだけどさっ!後ろでこっちを切なげに眺めてる4人は君を誘ってたんでしょ?彼らを振り切る形でこっちに来たんでしょ?楽しみなのはいいけど、まだ少し先の話じゃん。誘いを断りきらないうちに振り切って誘いに来なくてもよくない??
「……成崎?」
「……ぁ、ごめん、えっと」
「……もしかして、不参加……とか?」
藏元の一言に、盛り上がっていたクラスメイトたちの視線が一気に集まってきた。
「えっえ!?成崎くん不参加なの!?」
「まじで!?お前そんなにつまんねぇやつなのかよ!!?」
「空気読めよ成崎ぃ!!」
「えっいや、は!?ちが、違うって!行く!行きます!参加しますから!」
まさかここまで批判されるとは思っていなかった……。不参加と決めていたわけではないけど、彼らの気迫に押し負けて参加を表明してしまった……
「……良かった。嬉しい」
「…………」
ほんと、嬉しそうに笑うよな。その笑顔を見れて、参加するって言って良かったって思ってる自分もどうなんだろうか……。
ぁでも、この、流れなら、第一歩も、スムーズに行ける気がする……!
「ぁ、それで成崎、一緒に」
「いいよ、一緒に回ろう。玲麻」
「!!!?!!!?」
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