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いつもと違う言葉を口にした。
それが聞き間違いなのかと、皆呆気に取られて固まっている。藏元に至っては、何か言おうと口を開くも考えがまとまっていないのかすぐ閉じてしまってそれを何度も繰り返してはただ口をパクパクさせている。
中学までは仲のいい友だちを名前で呼ぶなんて珍しいことじゃなかったけど、この学校に来てから名前呼びはハードルの高いことだって学んで、宮代さんとの名前の呼び合いで色々理解した。
名前で呼ぶことが特別だってちゃんと理解した上で、それでもこれからは俺にとって藏元が特別だってことをはっきり伝えられるように……
俺の第一歩は、名前呼びから。
俺は可能な限り平静を装って、会話を進める。
「つか遊園地もいいけど、授業の準備そろそろしたほうがいいと思うんだけど」
「ぁ……ぇ……あの、あのちょ、と……待ってえっと……」
すげぇ動揺してんだけど。藏元がここまで動揺すると、平静を取り繕ってる俺が逆に変に見えない?
「ごめん、俺の、聞き間違い、……かな?」
「……何が?」
そんなの聞き返さなくても分かってるんだけど……平静装ってる俺としてはこれしか返しがないんだ。
「いや今返事が……ぇだって皆のいるところで成崎がまさか」
「返事?……だから、いいよ。玲麻と遊園地回るって」
「!!!!や、やっぱり呼んでる!?よね!?俺の幻聴じゃないよね!?」
「くくく藏元くんんん!!ぉお落ち着いて!藏元くんがそんなにオロオロしてるのはじめて見たよっ!?」
「僕らも聞こえてるから幻聴じゃないとは思うけどっ!なんだろう!?なんでか分かんないけど、僕らまで戸惑ってるよ!!」
皆の耳にもそう聞こえているのかと確認するように視線をさ迷わせる藏元を、慌てながらも宥めようとするクラスメイトたち。
「成崎、その、……いきなりどうしたの?」
「……別に。なんもないけど」
「嘘。成崎がこんな、人目引くようなこと率先してやるわけない」
「…………」
「あっ責めてるわけじゃないよ?むしろ凄い嬉しいから!でもなんで突然って思って」
「……そうわざわざ言うってことは、やっぱ困ってんのか」
「いやだから別に困っては……いや、困ってる。そんな可愛いことされたのに、でも皆いるから、ハグすら出来なくて困ってる」
「!!?」
「ひゃー!藏元くん言うことすら王子様過ぎぃ!!」
「イケメンの特権だよねぇ!!」
せっかく平静を装ってたのに藏元と、それを煽る皆のせいで俺の顔が急激に熱くなった。
「理由は分からないけど……これからは名前で呼んでくれるんだ?」
「…………」
「ね?だよね?」
やっぱやめた。
とは全く言わせる気の無い藏元の、目力。言質を取ろうとするこの迫力に、俺が勝てる筈もない。恥ずかしさ全開でただ一度だけ、頷いた。
「……嬉しい。ありがとう優」
「!!!」
「もうキュン死にしちゃうからやめてふたりともぉおおおぉおおっ!!」
「ご馳走さまでぇえす!!」
今日も2Bは平和なようです。
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