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腕時計を見る。時刻は10時51分。今日は玲麻と外出する日。
パーカーに黒の上着を羽織って、自室の玄関にある鏡を見て少しの着崩れを正す。必要最低限の物だけポケットに突っ込んで、鞄は無し。
近場の外出だし、まぁいいだろって特に考え直すことなく外に出た。
エレベーターを使ってロビーまで降りて来て、寮を出たところで門に寄り掛かるその人影を見つける。
「はよー」
「お早う。ぁ、こんにちは、なのかな?」
少し駆け足で駆け寄ればこちらに気づいた玲麻が爽やかに笑った。ジャケットにマフラー、お出掛けの私服も当然のようにスタイリッシュで格好いい。
「どうしたの?」
「あーいや……ぁ、鞄持ってるなーって思って」
私服姿に見とれてました、とは素直に言えず目についた鞄を指差す。
「え?あぁ……優は持たない人なんだね」
肩から斜め掛けしているボディバッグはシンプルだからこそお洒落に見えるのか、それとも玲麻だからお洒落に見えるのか。
「俺も、ちゃんと持つべきとは思うんだけどどうしても面倒くさがっちゃってさ」
「俺は不安だから一応って感じだよ。優が要らないなら別にいいんじゃないかな?」
「今は要らなくても今後の人生考えると落とし物するより鞄持ち歩く習慣つけときたいじゃん」
「それはそうだね」
そんな他愛ない会話をしながら俺と玲麻は校門に向かって歩き出す。晴天に恵まれた今日だけど、相変わらず空気は肌寒い。
街に着く頃は昼時だなぁ。温かい鍋とか食べたいな……
「…………」
「…………」
少し沈黙が続いた。玲麻がどういう気持ちで沈黙しているのかは分からないが、俺はちょっと迷っている事がある。
昨日の放課後の、東舘さんのことを伝えるべきかどうかだ。
玲麻は、東舘さんのこと苦手だと思う。いや俺も苦手だけど。だからせっかくこれから出掛けるっつーのに無闇にその名前を出して空気を悪くしてしまわないか不安だ。
でも以前、東舘さんと話すときは一緒に来てほしいとお願いした事もあるし、二人きりで話したことを隠しておくのはどうかとも思った。
さて、どうすべきか……
「優?」
「ん?」
「元気無いね」
「ぇ……そう、か?」
「もしかして体調悪い?今日はやっぱり」
「!違う違う。体調悪いとかじゃなくて……考え事してただけで」
「そう……気が乗らないなら、今日はやめよっか?」
「そ、そこまでじゃ……」
……これ、俺が悩んでるままじゃ結局外出無しになるんじゃね?だったら打ち明けた方がいいんじゃ……
「……考え事ってのは、その……」
「うん?」
「……東舘さんのことで」
「…………」
歩みを止めた玲麻に、内心凄く後悔した。
やっぱりその名前は出すべきじゃなかった!?
「ごめんっ今話すことじゃないよな!も、戻ってから話すから今のは忘れ」
「いいよ」
「……ん?」
「聞かせて?昨日何があったか」
「……いいの……?……ぇあれ?なんで昨日のことって……」
「実はね、昨日の勉強会終わり、凄く騒ぎになってたんだよ」
「え???」
「昇降口のゴミ箱に八つ当たりしたのかは知らないけど、ゴミが散乱したその傍に踞って微動だにしなかったって」
「…………」
なんだそれ……。勉強会って大体1~2時間だろ?俺が帰ってから残ったゴミを片付けもせずあの状態のままずっと……?
「その場にはあの人しかいなかったって聞いたけど、あの人にそこまでの影響を及ぼせるのって限られてるでしょ。」
「そんな大層な影響力は全くもって望んでいないのですが」
「気になったし心配もしたけど……前に、優は自分から俺を頼ってくれたから、俺から問い詰めるのは我慢しようって思ってたんだ」
「……じゃあ、いいの?街に行く前にこんな話しても」
「うん。聞かせて?」
まさか、俺の知らないところでアレがそんな騒ぎになってたなんて……そりゃ玲麻も気になるよね。それなのに俺を待ってくれるなんて……ありがとう。
俺は校門から出る前に、その場で昨日の出来事を玲麻に話した。
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