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他愛ない雑談や少し真面目な話をしながら歩き続け、街に着いたのは昼時ど真ん中だった。 飲食店は店内に入らずとも分かるくらいに何処も混雑している。 「予想はしてたけど、やっぱ休日となると混んでるなぁ……」 「そうだね。……優、お腹はペコペコ?」 「んーまだそんなでもない。玲麻は?」 「俺もまだ平気」 「じゃあ先に買い物しちゃうか」 「うん。俺もその方がいいと思う」 「確か、スポーツ用品店って……」 「向こうの通りだったよ」 飲食店が並ぶ通りを抜け、玲麻は迷うことなく歩いていく。 前に髙橋と出掛けたときもスポーツ用品買いに行ったのかな。スポーツ用品なんて俺には無関係だからな……。 今回の買い物、玲麻がいて本当によかったとその背中を拝みつつ追いかける。 「3店舗くらいあったんだけど、子供用だよね?……俺のお薦めの店でもいい?」 「ぁうん。そこら辺は玲麻に任せたい。俺全然分かんないし」 「了解。子供用だと、向こうの店の方がいいと思うんだ」 「へぇ……」 無知な俺は頷くだけ頷いて玲麻についていく。その途中、すれ違う他の買い物客たちがチラチラと視線を寄越してきた。 もういい加減馴れたと思ってたけど、やっぱり気になるときは気になるよな。この視線がどういうもので誰に向けられているのかなんて考えるまでもないけど、当の本人は馴れすぎて無視してるのか、単に気付いてないのか。 「ねね、今すれ違った人さぁ」 「見た見た。かっこよかったねー」 「高校生かな?」 「モデルとか?」 「俳優とかアイドルとかでも全然ありだったよね」 「ねーっ」 キャッキャと盛り上がりながら去っていく女子たちを、一瞬目で追う。 アイドル、ね。さすが女子。当たってるよ。女子どころか、男子校でも大人気の王子様ですよ。 「優、あの店だよ」 「ん?……ぁはい」 「?どうかした?」 「んーなんでもない。行く行く」 振り返って目的の店を教えてくれる玲麻に、逸れていた意識を戻して店に向かう。 「気になるものでもあった?」 「ううん、そういうんじゃない」 「じゃあ、気になる子でもいた?」 「お前なぁ……」 「あはは、ごめん冗談」 どこまでが冗談なんだよ。 ため息を吐いて玲麻のあとに続いてスポーツ用品店に入る。店内は専門店だからなのか、昼時だからなのか、あまり他の客はおらず閑散としていた。 「何を買おうとかも全然決めてないの?」 「んー。サッカーに使う何かってことだけだなぁ」 「服のサイズ、靴のサイズも分からないんだもんね」 「服?」 「うん。もし分かってたら、プロのサッカーチームのユニフォームとかでもプレゼントとしてはいいんじゃないかなって」 言いながら店内に陳列してあったスポーツウェアのコーナーに止まった。 どこのチームかはさっぱりだけど、俺でも何となく見覚えのあるデザインのユニフォームが並んでいた。 「あーそういうのもあるのか……ほんと無知でごめん」 「そんなことないよ。取り敢えず、一通り見てそれから選ぼうか」 「ん」 店内を別々に見て回ることにした俺たちは一端別れた。別れたといっても店内だからちょっと探せばすぐ見つけられる範囲だけど。 ぐるぐると見渡しながら歩いてみるけど、今までの俺がスポーツと縁遠かったから目に映る殆んどの物が用途不明だった。 こんな知識で果たしてプレゼントなんて選べるんだろうか……玲麻に頼りきりの買い物になるのでは……? 「はぁ……」 「何かお困りですか?」 「!!」 最悪だ!何が分かってないのか分からないのに店員に話しかけられたら更に困るだけのやつだ!!なんて言おう!!? 背後にいるであろう店員を無視するわけにもいかず、空笑いをして仕方なく振り返る。 「いやぁ困ってるっていうかそのぉ……」 「こんにちは、先輩」 「ぇ……あ、え???」 振り返ってみればそこにいたのは店員ではなく、めっちゃいい奴イケメン水谷くんだった。

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