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男同士の恋愛
それが普通じゃないってことは分かっていたつもりだ。俺自身、ついこの間までそれを受け入れない側だったんだから。それが今受け入れられる側になったのも、あの学校の特殊な環境にいたからで、偏見も差別も殆んど無かったのはあの環境のおかげ。
でもついに、いやむしろ遅いくらいか、漸く世間一般の声が向けられてきた。
“気持ち悪い”
この先絶対向けられるだろうと覚悟してはいたけど、実際言われると結構キツい……
「ぁ、すいません。誤解されると嫌なので、ちゃんと言わせてください」
さっきまでめちゃくちゃいい奴に見えていた水谷くんが今は怖く見える。
俺はたった一言で想像以上にダメージを負ってしまっているのだけど、これ以上何を言われるのだろうか。
「俺ほんとに、成崎先輩も藏元先輩も尊敬してます。ほんとに好きな人たちです」
「……?」
気持ち悪いと突き放されたばかりなのに、この子は一体何を言っているのか……?
言っている意味が分からず若干首を傾げたら、水谷くんは真剣な顔で俺を見据えた。
「藏元先輩は運動神経抜群で、才能の塊って感じで憧れてます。成崎先輩は凄く気遣いできて、話すと気さくだし優しいしめっちゃいい人で、マジで友だちになりたいと思ってます」
「……あの、水谷くん」
「だからっ!」
貶されてから誉められても、また貶されたときのダメージのほうが大きくなるだけなんだけど……
俺たちを嫌うのなら余計なフォローはしないでほしいと手を翳して制止しようとしたら、その手を力強く掴まれた。
「ふたりが傷つく前に、戻ってほしいんですっ」
ぎゅうっと握られた手から、淀みのない瞳から、その誠実さが伝わってきた。俺たちを、心底心配してくれてる。
「学校の外じゃ、俺が言った言葉よりもっと酷いこと言われると思います。あの学校だけですよ、受け入れてくれるのは」
「…………」
「だからなるべく早いうちに、気づいてほしくて……考え直してほしいんです……!」
「…………」
「…………そうだね」
答えられずにいた俺に代わって、玲麻が静かに頷いた。頷かれたことに俺は内心動揺した。
「でも俺も優も、元々は“外側”だったんだ。皆が思ってるより、ずっと冷静に考えられてると思うよ。…………特に、優は。」
「……なら、学校の雰囲気に流されてないって、勘違いしてないって言えますか」
「さぁ、それはどうかな。」
真剣な表情の水谷くんに対して、玲麻はあくまで微笑んでいる。
「でもこの先もふたりでいられるよう、俺は優とふたりで考えていくつもりだよ」
「…………そうですか」
玲麻の返答に少しだけ納得したのか、爽やかに笑った水谷くんは俺の手を離して小さくお辞儀した。
「……じゃあ、俺そろそろ戻りますね」
「ぁ……うん……」
「成崎先輩」
「ん……?」
「成崎先輩には、ほんとに傷ついてほしくないんです」
「…………」
「だから、俺は俺で、先輩の力になれるよう頑張ります」
「……あの、水谷くん……俺なんかに、なんでそこまで」
「?……なんでって」
あの野球の時以来、ずっと疑問だった。俺なんか、水谷くんが気にかけるほどの人間じゃないのに。
「いい人だからですよ」
「……は?」
「俺には、善人だと思えたんです」
「俺が善人ですか??」
「はい。これは俺の我が儘ですけど、俺が思ういい人には、幸せになってもらいたいので」
じゃまた、と微笑んで挨拶した水谷くんは店を出て行ってしまった。
……突然現れて、突拍子もない話題を振ってきて、かと思えば颯爽といなくなってしまった。色々、情報処理が追い付いていないけどでも……
「……ほんといい奴ですあの子……」
「……うん、……多分、そうなのかもね」
キツい一言は言われたけど、それでも何故か水谷くんを悪く思ったり嫌いにはなれなかった。
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