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白菜や人参、豚肉や豆腐が豆乳汁のなかでグツグツと煮えている。
テーブルの真ん中に置かれた美味しそうな鍋を覗き込む。
「さぁ、食べるか……!」
「うん、温まりそうだね」
「むしろ汗かきそう。いただきます」
「いただきます」
プレゼント選びを終えた俺たちは、寒いし空腹だし、昼飯は鍋になった。時間をずらしたおかげで店内は空き始めていて程よく快適な空間になっていた。
手を合わせ挨拶して、器に盛った白菜と豚肉を頬張る。
「……うまっ……!」
「……ふふっ……うん。旨い」
「豆乳鍋、初めて食べたんだけどめっちゃ旨いなぁ」
「そうだったの?旨いなら良かった」
二口目を頬張りながら、玲麻に肯定の意味を込めて頷く。
鍋が食べたいと言ったのは俺で、メニューを選んだのは玲麻。玲麻が好きな味を知れるのも楽しくて、何も言わずに注文したんだ。
「初めての豆乳鍋も旨いし、プレゼントも無事決まったし、気持ちとっても晴れやかです」
「結局、プレゼントは普通になっちゃったけどね」
「いやいや。手伝ってもらえて助かったよ、まじありがと。」
隣の席に置いていたプレゼントが入った紙袋を見る。中身はサッカーボールだ。
スポーツ用品店を見て回った結果、複雑な用具を送るより単純なものを送ったほうがいいだろうということになり、玲麻曰く品質良くて蹴りやすい、デザインが格好いいサッカーボールにした。
「あとはこれをあの人に託すだけだなぁ……俺にはそれが一番の難関というか……」
「あはは……変に怪しまないですんなり受け取ってくれればいいね。」
「多分それはないよ。何か企んでるだろって絶対疑われる」
ため息を交えながら呟き、ウーロン茶を飲む。あの御方の不気味な笑みを思い出してしまい身震いした。
「……優」
「ん?」
「無理、してない?大丈夫?」
「……何が?」
「水谷くんの時の……」
「…………」
グラスを持っていた手が一瞬揺れる。
水谷くんと別れてから、俺も玲麻もその話について蒸し返すことはなかったけど、でもやっぱり、気にしてないわけじゃなかった。
「……結構、ショックだったよ」
「うん……」
「覚悟はしてたけど、実際言われると……まぁしんどいよな」
グラスをテーブルに置いて、箸を持ち直す。玲麻は器のなかをじっと見つめている。
「……でもだからって、そう言われたって、今の俺が不幸とは思ってないよ」
「え……」
「……えじゃねぇよ」
「ぁ……うん。ごめん、」
玲麻の表情が不安そうに見えたから、柄にもないことを言ってみたけど……今さら恥ずかしい。今の俺多分顔赤いよな。
「……優」
「なんだよ」
誤魔化すように鍋を盛り直す。長ネギ旨そう。
「ありがとう」
「……その話はもういいから、今は食べましょうよ玲麻さん……」
「俺も幸せだよ」
「へーへーそれはよかったです」
「大好きだよ」
「!!?ぉ、前……ここ店っ」
「豆乳鍋。美味しいよね」
「………………!?」
にこぉっと笑った玲麻は俺の反応を見て完全に楽しんでる気がする。
誤解されそうでされない、微妙なこと言うなよ!ビビるだろ!
「そういうところも全部」
「な、……は、はぁ……!?」
何事もなかったかのように食事を再開した玲麻。俺は持っていたお玉を落っことしそうになった。
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