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街が暗闇に呑まれ、路地の街灯がオレンジ色の明かりを灯した頃。本来の目的を済ませた俺たちは服屋とか本屋とかに立ち寄って、そろそろ帰ろうかという話に至り帰路に着いた。 帰りの道はさすがに暗すぎたのでバスに乗ることになった。 乗り合わせた女の子数人が玲麻を見てきゃっきゃしていたが、玲麻本人は1度そちらを見ては微笑んで、そのあとは完全スルーを決め込んでいた。 そしてバスに乗ること十数分、学校前のバス停に到着した。 「うー……ん……!」 バスから降りて万歳して背伸びしていたら、少し遅れて降りてきた玲麻が脇腹をつついてきた。 「えぅ゛!?」 「あはは、お疲れ。バスのなか、眠そうだったね」 「んー。立ったまま寝るところだった」 「そんな器用なことできるの?」 「あの眠気なら、頑張れば出来る気がした」 欠伸をしていると、発車したバスの窓越しから女の子が手を振っているのが見えた。例の女の子たちだ。 「…………」 「…………」 通り過ぎていったバスと玲麻を、じとーっと交互に見つめる。 「視線が痛いです……」 「手くらい振り返してやれよ王子様」 「いや、知らない子だし」 「愛想悪い奴に見えるだろ」 「いいよ別に。変に期待されても困るし」 「……期待?」 手を振り返すだけで知らない奴に期待なんてしないだろ? そう思った俺に、ちょっと悩んだ顔で丸めた手を出してきた。よく分からず、何かを受け取る。 「?…………え゛っ?」 「さっき、降りる寸前に渡された」 「……今どきの女子ってこんな積極的なわけ?」 メモ用紙に書かれた連絡先。メッセージアプリのIDだった。 「俺がどんな奴かも全然知らないのに、軽率すぎるっていうか……危ないよね」 「お前は見た目通りいい奴だけど……玲麻みたいなやつばっかじゃないからな……」 楽しそうに手を振っていた女の子を思い出しながら紙を返したら、玲麻は苦笑いして紙をポケットに仕舞った。 「気を付けろって言っとけよ」 「……え?」 「え?」 「言っとけよって、何?」 「……連絡しないの?」 「しないよ。逆に何ですると思ったの」 「……ちゃんとポケットに仕舞ったから」 「あぁ……これは一応個人情報だから。寮に戻ってから捨てるつもり」 「……偉いな」 ちゃんと考えてみれば、玲麻がそう簡単に女子に連絡する筈ないか。考え直して歩き出したら、するりと違和感なく手を握られた。 「俺が意識してほしいのは、ひとりだけだよ」 ……めっちゃ、イケメンなんだけど。顔近いんだけど。見入っちゃうんだけど。 相変わらずの綺麗なあの瞳が、至近距離で俺を見ている。 ……ぁ、キスされ…… 「……そんな見つめられると、さすがに照れるんだけど」 「…………」 ……あれ……? 「……どうかした?」 「……ぁ……いや……」 「?……帰ろっか」 「…………おぅ……」 今までの玲麻なら、………… 突然覚えた違和感に、それでも玲麻に問うことも出来ず、引かれた手を見つめながら寮に帰った。

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