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「……かけ直す」
電話中だったらしい風紀委員長様は一言呟いて電話を切ると、俺と玲麻に向き直った。
向き直ったと言っても、対話をするためではなく、逃がさないため、だと思う。
「風紀委員会室前で、風紀を乱す行為をするとはな。度胸があるのか、相当な阿呆なのか」
「風紀を乱す行為なんてしておりません!!決して!!」
「ふん。相変わらず、鈍感な間抜けだな。成崎優」
「は……?」
「お前は頭を使った挙げ句の馬鹿だから大体想像がつくが、」
「ちょ、あの、少しくらい失礼だって思わ」
「藏元玲麻。お前は何を企んでやがる」
「…………」
俺の苦情は一切聞かず玲麻を睨む風紀委員長様。この御方にとって俺はまだ人権獲得していない身分らしい。だったら騒いでも無駄なので諦めて黙っていよう……。
「俺に目をつけられて、お前の望まない方向に行くのは目に見えてるだろうに」
「……もう何かをしたところで、あなたの考えは変わらないのでは?」
……?
「くくっ……はははっ。あぁ。変わらねぇ」
「……優、それ、渡しちゃおう?」
「……ぁ……おぅ……」
ふたりのやり取りの内容が全く見えてこない。
風紀委員長様の考えって何?
そう思いながらも追及も出来なくて、数歩前に出て持っていた紙袋を風紀委員長様にただ差し出す。
「……なんだ」
「……弟さんに、渡してください」
「あ?」
「誕生日会、誘ってもらったのに俺は行けないから。それに、あなたにだって、行ってあげてほしいって無理なお願いしたわけだし……そのお詫びというか、せめてもの御祝いというか……」
「…………成崎優」
ぁ怒った?弟くんに渡すためのパシりにすんなって?余計なことすんなって捨てられたりして。あー怖ぇええ離れてぇええ。
紙袋を持つ手にギュッと力を込めて震えをどうにか抑えて、感情を隠すように視線を下に向ける。
「名前で呼べと言った筈だが」
「…………ぇ」
「間に合ってよかったな。今日、このあと帰省するつもりだった。これは、貰っといてやる」
ぁああれ?す、すんなり受け取ってもらえた。意外とサプライズに弱いとか?
と思っていた俺は、完全に思い違いをしていた。この御方の今の興味が玲麻に向いているだけだった。
「明日一日、お前らに代行させると委員会の奴等には言ってある」
明日!!?そうだったの!?俺何も聞いてないけどっ!!
「頼んだぞ、次期風紀委員長」
意地悪性悪悪辣陰険……最大限のニヤリを披露した風紀委員長様。
よくそんな寒気のする笑顔つくれますね……てか、……え……………………次期って、何?
「…………なんだ。何も聞いてないのか、成崎優」
「…………じ、……」
俺の反応を見て察したくせに、玲麻と俺の仲を馬鹿にするようにわざわざ聞いてくる風紀委員長様に、“次期風紀委員長”について聞こうとしたがギリギリで飲み込んだ。
多分……玲麻が、色々決めてから話すと言ってくれていたことがこのことなんじゃ……?
だったら、この御方の挑発には絶対乗っちゃ駄目だ。
「…………無理に聞き出すばかりじゃなくて、たまには待ってみたらどうですか……」
「……あぁ?」
「少なくとも玲麻は、利己的な人間じゃないので……俺は話してくれるの待つだけです」
「……あぁ、なるほど。俺のやり方が気に食わねぇんだな?本当にお前は……くくっ」
「…………」
「心、へし折りたくなるなぁ」
き、鬼畜が出たぁあぁああっ
風紀委員長様の手が、首に向かって伸びてきた。また首絞められるのか。
でも俺には避けられるほどの反射神経もなくて、若干諦めながらその手をスローモーションで見つめていたら思いきり後ろに引っ張られて風紀委員長様の手を逃れた。
「……触らないでください」
「……!??」
寸前で玲麻に助けられていた俺は、玲麻の腕のなかにすっぽりと収まっていた。
「……ははっ。利己的じゃねぇか。こんな目をする奴なのになぁ?」
こんな、目?
その目を確認したくても、真後ろにいる玲麻の顔は今の体勢では確認できない。
「……さて。俺はそろそろ出る。てめぇらもさっさと帰れ」
一通り馬鹿にして満足したのか、漸く風紀委員長様は解放してくれた。が、俺は玲麻の腕のなかに閉じ込められたまま、玲麻はその場から動こうとしない。
「……?」
「……塚本風紀委員長」
「あ?」
「……髙橋は純粋で優しくて、誰かと楽しみを共有することが何より好きな人です」
なんでいきなり髙橋の話を?
「せめて、髙橋には優しくしてください」
「…………??」
「…………うぜぇ」
扉を閉めかけていた風紀委員長様はボソリと呟くと、俺を見て鼻で笑った。
「成崎優、1つ忠告してやる。そいつの足枷になりたくねぇなら、少しは卑怯も覚えるべきだ。」
「……は?」
足枷?俺が、玲麻の?俺が聞き返す前に風紀委員会室の扉は閉められてしまった。
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