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指輪なんて、そんなガチ過ぎるもの貰ったところで着けられるわけない!!てか、指輪もらうなんてっ、この学校ですら見たことないんだけど……!
「様呼びやめてよ。冗談だから」
ハハハ、と爽やかに笑う玲麻に俺も少しの疑念を残したまま笑い返す。
「で、ですよねぇ。アハハ」
「……今は。」
「ハ…………」
今後なら指輪の可能性あるんかい。
「で、本当に聞きたかったことって?」
あ、この話題はここで終わりでいいの?
……………いいの俺?
指輪はこの場で再度強めに断っておくべきなのか?
「……優?」
「…………」
言え。今後も指輪はありえませんって、今ここではっきり言え。断れ俺。勇気を出して言うんだ!
「…………あのー」
「うん?」
断っておいたほうがいいだろ俺?だって指輪だぞ?付き合ってる玲麻からそんなもの貰ったら、アレ以外の何物でもないだろ……?そりゃ、玲麻のことは好きだしその玲麻から貰うんなら嫌悪感なんて勿論無い。むしろ、歓喜するほどの幸福感を得られると思うけど。それでも、指輪が持つ意味は高校生の俺たちにはまだ重すぎるんじゃないか。この先の未来、俺たちがどうなるかなんて全く分からないのに指輪はやっぱり早すぎるというか………
………ん?……あ゛っ!?ちょっと待った俺!!なんで貰う前提で未来の事悩んでんの!?玲麻も恐らく渡すかもで話てるのに、俺だけ受け取る受け取らないで悩んでたら、ただの浮かれた妄想じゃん!!念押しで断るとか逆に欲しいですアピールにもなり兼ねないよな??!
じゃあ“可能性”だけの未来を今ここで完封する必要もないよな??
「…………“次期風紀委員長”のことなんですけど」
「そうだよね……。やっぱり、そこは気になったよね」
悩んだ末俺は未来よりも過去のことについて話を進める。
「そりゃまぁ……あの人直々に後継者を言うなんて……次期候補に玲麻を推薦する気満々ってことだろ。つーか、あの人のなかではもう決定してるだろ」
「…………多分ね。」
ふーっと息を吐いた玲麻は綺麗に拭かれた黒板をぼんやりと眺めた。どこか疲れた表情の玲麻に、不安を覚えた。
……も、もしかして…………次期候補に上がってしまった理由って、俺のせいなんじゃ……?
だって、玲麻があの人と関わったきっかけは俺が原因だったから……
「…………ごめん」
「……?何が?」
「……今からあの人に頼み込んでくる。土下座でもなんでもして候補撤回してもらう」
「優っ!待って!」
玲麻は教室を出ようとした俺の腕を掴んでそれを阻んだ。止める意味が分からないと振り返れば困惑した表情で見つめてきた。
「大丈夫、撤回の必要はないから」
「なんでだよ。あの人と関わったせいで目つけられたんだろ?じゃなきゃ、お前が風紀委員長なんて目立つ役割を引き受ける筈無い」
「優は、俺が塚本風紀委員長と関わったのは自分のせいだって思ってるでしょ?」
「本当の事じゃん」
「きっかけはそうだけど。でも別に、“せい”だとは思ってないよ。“おかげ”だと思ってるくらいだし」
「は!?あの人と関わったことプラス方向で思えてるわけ!?そんなことあるの!?」
「うん」
「ちょ……ごめん、相当疲れてるな玲麻。大丈夫か?寝不足で頭回らなくて思ってもないこと言ってる?」
「ははっ大丈夫。ちゃんと起きてるよ」
腕を引っ張って俺を教室の扉から離した玲麻は扉の前に立って出口を塞いだ。
「俺が次期候補になってるって知ったら優は絶対自分のせいだって思うだろうから、なんて説明しようか悩んでたんだ。でも、塚本風紀委員長の推薦を受けたのは俺の意思だよ」
優しく微笑む玲麻に、眉を寄せる。疲れた顔してたのに、無理して笑っているんじゃないのか。
「さっき、」
「うん?」
「あの人の推薦決定してるって言ったとき、疲れた顔したじゃん」
「あぁ……それは、疲れたんじゃなくて、呆れてたんだ。優には、俺から言うつもりだったのに、あの場で言うなんて……塚本風紀委員長、意地悪だよなって思って」
「…………」
「優、前に言ってくれたよね。もう1回くらい、部活のこと考えてみたらって」
「……ぇ……あぁ」
「あれから俺なりに真剣に考えてみたんだけど……、やっぱり無理だと思うんだ」
玲麻がちゃんと考えて、無理だと結論付けたのなら無理なんだろう。あとはもう口出しする気はない。
ただ、風紀の話をしていたのに、何故突然そんな話を?
「でも俺、部活以外で、他にやりたいことが出来たんだ」
「!そ、そうなの??」
玲麻は才能の塊だ。運動ができるからって、部活だけに縛られる必要もない。玲麻がやりたいこと、それが見つかれば俺はなんだっていいって思ってる。
「そのやりたいことが、風紀の仕事なんだ」
「!!!まじかっ……!?」
それは予想の斜め上でした!!
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