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「……あの……?優、大丈夫?」 「…………うん。全然大丈夫。ぁはは」 「そう……?」 俺のおかげでやりたいことが見つかった? 果たしてそれは、思い違いをしているのではないか……? 「つーかさ、玲麻もいちいち大袈裟だって。俺が何かしたわけじゃないし、しかもそれがやりたいことって。もっと楽しめそうなこと見つけろよ」 笑いながら玲麻の肩を小突いた。今の俺は、ちゃんと笑えているだろうか。引きつっていないだろうか。 「大袈裟じゃないよ。俺の好きなことは、優の役に立てることだから」 「……いや……だから……」 ……それだよ。玲麻の気持ちを疑いたいわけじゃない。ただ、好きという理由だけで、そこまで出来るものか?そこまでする必要があるのか?例え玲麻が尽くすタイプだったとしても、そこまで自分を殺す必要はないだろ。 「それは有り難いけどもう少し……えっと、俺に合わせない時間も持っていいと思うんだけど」 「ぁ……ごめん……」 「!そ、そうじゃなくてっ、迷惑だとは思ってないから!そこは誤解しないでほしい!」 「……」 「……」 他にやりたいことを探してほしい、と遠回しにではあるが否定しすぎたせいか、玲麻は複雑な表情を浮かべて黙ってしまった。 俺は俺で妙に不安な気持ちが止めどなく溢れてきて、でもそれを伝える術が分からなくて言葉を詰まらせてしまって、気まずい沈黙が訪れた。 玲麻の優しさも、思いやりも、感謝すべきことだって頭では分かっているのに……。 嫌なんだ。 玲麻が俺に合わせてるって思うだけで、部活のメンバーに合わせて自分を押し殺してた頃の玲麻に戻ってしまったんじゃないかって……。 でも、……認めたくないけど、俺と玲麻の今の関係は、少し、悪くなっているんだと思う。 だって玲麻は、俺に触れてこなくなったのだから。 「…………頑張って」 「……え?」 「次期委員長。ドSにならないようにだけ気をつけて」 「ぁ……うん、ありがとう。頑張るよ」 小さく笑った玲麻に、俺も笑い返す。玲麻は他人思いで遠慮し過ぎる奴だから、気持ちが離れ始めてても玲麻から“別れたい”なんて切り出せないんだろうな。 何より、俺を“こっち側”に連れてきた張本人だし。 だから、恋人のようなことは出来ないけど、俺の役に立つことで償いをしようとしているのかもしれない。 「……はぁー……今でさえファン多いのに、風紀委員長になったら凄そうだな。想像するだけで怖いわぁ」 「規則違反とか風紀の取り締まりとか、厳しくするつもりだから逆に嫌われると思うな」 首を振って肩を竦めた玲麻に、心の中で全否定した。今のあの下衆委員長でさえ、とんでもない数のファンがいるんだ。増えることはあっても、減ることは絶対ないよ。 「……玲、」 ガラッ 呼びかけたとき、隣の教室の扉が開く音がして、咄嗟に壁掛け時計を見上げた。その時刻を見て誰が来たのかは大体察しがついた。 「見回り……!」 「優、教卓の下に」 「は?」 「早く」 「??」 よく分からないけど、玲麻の早口の指示とジェスチャーに急かされて教卓の下に潜り込んだ。数秒後、廊下を歩く足音が近づいてきて俺たちのいる教室の扉が開いた。 「!!……ビビったぁ……藏元じゃん」 「見回り、お疲れ様」 どうやら今日の見回りは、玲麻と仲の良い風紀委員らしい。

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