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「明かりついてないから、誰もいないと……てか、誰かと話してなかった?」 「電話してたんだ」 「そーなの。ぁ委員長から聞いたよ。明日1日、代理なんだって?」 「うん。1日だけだけどよろしくね」 「まぁ藏元は前に委員長直属でやってたし経験者ってことで大丈夫だと思うけどさぁ……。ほら、明日は藏元の恋人ちゃんも代理やるんでしょ?代理に明日の業務やらせるとか、委員長は……さすがって感じだよ」 呆れたような、同情するようなその人の声に疑問が浮かぶ。明日の業務って、何かあるのか? 「……大変だろうけど、でも俺がフォローする」 「え、付きっきりになるつもり?」 「それに、優は頭もいいし覚えも早いから、きっと大丈夫だよ」 隠れているとはいえ……わざわざその場にいない俺のお世辞を言っておくなんて、また気を遣わせてしまった…… 「出た出た。藏元、ほんと溺愛してるよな。でも、藏元だって仕事振り分けられてんだからな。付きっきりとか無理だと思うぞ」 「それでも、優のサポートは俺がするから、皆はいつも通りにって伝えておいて」 「はいはい。言うだけは言っておくよ。委員長に発言するわけじゃないし、それくらいは言えると思うからな」 相手が委員長だったら、発言すら許されないと言っているように聞こえる。 ……実際そうなのかもしれない。委員会メンバーですらそんな関係なのか。なんて恐ろしい……。 「でも、あんまり期待しない方がいいぞ」 「どういう意味?」 「仕事振り分けていったの、委員長だし」 「……そうだろうけど、それが?」 「その引き継ぎ説明を任されたの、谷だし」 「……谷か……」 タニ?……その谷さんって人が、何か不味い人なんだろうか? 「……明日の交渉は、長引きそうだな」 ボソリと呟いた玲麻から、それだけサポートを他人にやらせたくないんだという気持ちが汲み取れた。 風紀の仕事初心者の俺の世話をするのは、委員からしたら余計な仕事だもんな。俺なんか、行ったところで邪魔なだけ……。 「明日は皆結構楽しみにしてるから、隠さずちゃんとふたりで来いよ」 「そう言われると、隠したくなるよ」 「あははっ。まぁ委員長の指示だから仕方ないよな」 「…………」 「じゃあ俺そろそろ見回りに戻らないと。明日、よろしくなー」 「うん。よろしく」 「今回は報告しないから早めに帰ってくれよ」 「ありがとう」 別れの挨拶をして、ひとりの足音が遠ざかっていった。 知り合いなら、いや、風紀委員会に携わった玲麻なら、見回りに引っ掛かっても見逃してもらえるのか。彼等と関わって得することもあるらしい。 「…………優、もう大丈夫だよ」 「…………ありがと」 教卓の下から出てきて、微笑む玲麻に会釈した。 「……代理が明日ってことも、知ってたんだ?」 「あっ……うん……ごめんね。何もかも、いつ話そうか悩んでたら結果こんなタイミングになっちゃって……」 「……別にいつ聞いたって気持ちは変わらないけどな……」 ただ、俺に話すだけでここまで気を遣わせてしまっている。玲麻にとっては、それだけで精神的ストレスになっている筈だ。 “退く気はない” それは他人相手だったらの話。でもそれが、他ではない、玲麻相手だったなら。 玲麻が退くことを望んでいるのなら……。優しい玲麻がこの関係を無理して続けているのなら……せめて俺が退くべきだろう。 「……明日、頑張るので、ご指導お願いします」 「!……うん、一緒に頑張ろう」 いつも通り笑った玲麻に隠れて、俺は密かに決意を固めた。

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