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代理といっても風紀委員会の仕事は初心者なわけだし、俺の役割はそんなにない筈だ。だから俺は任された仕事を隅のほうでやって、皆の邪魔にならないよう気を付けよう。 ……なんて、弛く構えていた俺は、俺に仕事を振り分けるのがあの鬼だということを失念していた。 「…………何コレッ!?」 机の上に積み上げられた書類の山。その全てが鬼から俺に与えられたものだという。 「はじめての人にこの量はいくらなんでも多すぎないですかって、俺も言ってみたんだけどねぇ」 俺の隣に立ち、同じく書類の山を眺めながら呟いた、谷くん。鬼からの引き継ぎを説明してくれているのだが、その間ずっとあの笑顔を絶やさない。 「あの御方が減らしてくれるわけないっすよ……」 いくら委員の意見でも減らす案を受けてくれる筈がない。 他でもない、俺への嫌がらせなのだから…… 「……へぇ。分かってるね、成崎くん」 「?」 「うちの委員長様は口調は厳しいけど、人の能力を見抜く力はあるから。成崎くんなら、ちゃんとやればこの量でもできるって判断したんだと思うよ」 そんな意味合いでは決して言っていない。意地悪だなとしか感じなかった。 「あの鬼畜様にそんな素晴らしい能力があったなんて初耳っすわ。つーか、それでも今回のは俺を苦しめたいだけっすよ」 ちゃんとやればっていうけど、この量は一時も休まず集中し続ければ終わるって量でしょ……。明らかに休ませる気ないでしょ。 「……あははっ」 山積みの書類を睨みため息を吐いていたら、また笑われた。どこが笑えるところなんだと隣を見れば、まだ笑いを引き摺る谷くんがごめんごめんと手を振った。 「成崎くんって、真面目でしっかりしてる、優等生だと思ってたけど……ふーん、うちの委員長様が構いたくなるのもちょっと分かったかも」 「は……はぁ??俺は平凡で地味でこれといった特徴もない、何処にでもいる、背景に溶け込むモブっすよ。鬼みたいなサディスト様とは縁もゆかりも、」 「委員長様を、“俺様”とか“王様”呼びする生徒はたくさんいるけどねぇ。“鬼畜”とか“サディスト”呼びする人は珍しいよ」 「…………」 つまり、あまり好意的ではない呼び方が普通ではないと言いたいのか。 フフフッ………………あの人のどこに好意を抱けと!!? 「はははっ!ほら、めっちゃ嫌そうな顔。そういう人こそからかい甲斐があるんだよ」 「最悪だっ……」 俺は関わりたくないという思い一心でひたすら避けようとしていた。しかしそれと同時にあの御方の横暴に耐えられず、小さな反抗もしてしまっていた。 それが更に悪い方向に進んでしまった原因らしい。 俺は凡人だ。それは分かってる。だがしかし、凡人だろうと人間だ。 人権の要求くらいしてもよくないか? 反抗の仕方は後悔すべきところだが、反抗理由は後悔してないぞ!

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