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「成崎くん、大丈夫?なんかどんどん不機嫌な顔になってるけど」 「お構い無く」 隣から顔を覗き込まれ、反対側に顔を背けた。谷くんは今度は少し焦った口調で話す。 「参ったなぁ、ごめんね?馬鹿にしてるつもりはないんだよ?皆が気になっちゃう性格してるねって意味だから、悪いことじゃないでしょ?だから、機嫌直して?成崎くんが不機嫌だと色々不味いからさっ」 「俺の機嫌が、なんで谷くんの不都合に繋がるんですか」 「だって、」 「谷、近いよ」 「……げっ」 「……」 俺と谷くんが扉のほうへ振り向けば、そこには玲麻が立っていた。物凄い剣幕で、谷くんを睨んでいる。 確か玲麻は今日の役割は外業務だと言われていた筈……。何故ここに? 「皆が気になっちゃうって、どういう意味」 「はい?」 「今、そう言ってただろ」 「……はぁー……一体どこから聞いてたの?」 不服そうな態度でそのまま入ってきた玲麻は俺と谷くんの間に立った。そして俺を見てから、谷くんを見据えた。 「……優に、何したの」 「ぇ何?」 「ここまで近づく理由って何」 「れ、玲麻、誤解だって。この人、さっきからふざけてるだけで何もない」 「誤解ぃ?ずっとはふざけてないけどなぁ」 この人っ……人がせっかくフォローしようとしたのにっ……! 「…………」 ほらぁ……玲麻の視線が更に険しくなったじゃん。谷くんが何故ヤバいのか、何となく分かったかも。 空気を読む気無いんだ。しかもわざと。 「……谷、マジでサポート交代して」 「交代とか、無理だから。藏元も知ってるだろぉ?委員長様が今回の担当を決めたんだ。その担当以外の奴がやったら、あの人には癖や仕上げ方で、絶対バレるから。委員長様に怒られるのだけは俺も勘弁でーす」 大袈裟にため息を吐いて、でも笑みを浮かべて、玲麻の肩をトントンと叩いてその場から退かそうとする。 「なら、誤解招きそうな発言は控えて」 「誤解はそっちの責任だろー」 「嫌がること、絶対しないで」 「しないってば」 何が可笑しいのか、ケラケラ笑う谷くんを一瞥して玲麻は俺を見た。 不安そうというか、心配そうというか……その顔をさせてしまう俺って………… 「優、何かあったらすぐに」 「俺の事はいいから。玲麻は自分の役割に集中しなよ」 「ぇ……?」 「俺も、これだけ押し付けられたし、俺の役割に集中するし」 机の上の山積みの仕事を示して玲麻から目を反らす。 「優……?」 「だよねー?成崎くんの言う通りですねぇ。ふたりとも凄い量割り振られたんだから、さっさと自分の仕事に集中しましょー」 谷くんは一方的に告げると、再び玲麻の背中を押して扉のほうへ追いやる。 「ちょっと待て谷!俺だってちゃんと用があって戻って」 「はいはい、これだろ?サポートは俺に任せて外よろしくねー」 谷くんは最初から玲麻の戻ってきた理由を察していたらしく、扉近くにある棚からファイルを取ると玲麻に押し付け、そのまま廊下に押し出した。 「優っ!嫌なことあったら絶対言ってね!?谷っ、近づきすぎるなよ!!」 「はいはい。さっさと自分の仕事に戻んなさぁい」 玲麻の忠告を雑に聞き流して谷くんは容赦なくピシャリと扉を閉めた。そしてくるりと振り返った谷くんはとても楽しそうに……ニヤニヤしていた。 「いやぁ……噂以上で……たっのしいぃ」 「………………」 噂という言葉は、俺にとって嫌な響きでしかないな。この空気読まない人が口にすると、余計に。

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