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「にしても成崎くん。めっちゃクールなんだね。あれだけ愛されてるのにその絶妙にスルーする感じ、そりゃ皆に気になるよね」
谷くんは一体何を誤解しているんだ。玲麻は単純に俺を心配していただけで、それが愛には繋がらない…………
「あぁ……そういうことか」
「ん?」
何が?と笑顔のまま眉を上げた谷くんに小さく首を横に振った。
「ごめん、こっちの話」
「……そう?」
「んー」
前々から、皆が言っていた俺に対する玲麻の態度。あれは玲麻の気遣いと優しさの現れであって、“好き”とか“恋”とか、そういう好意的なものとはまた違うものだ。それを皆が誤認して、恥ずかしいことに俺もそれを信じてしまった。
多分、当初は本当に“好き”もあったんだろうけど、今は関係上恋人に対する優しさのみ……。
だから、無理をさせているのは完全に俺のほうだ……
「大丈夫?」
「うん。問題ないです。あ、仕事。何すればいいんすか?」
「えっとじゃあ……この反省文の山から片付けよっか」
「はい…………はい?」
反省文?これ全部反省文なの?そこそこの高さがありますけど。
「ははは。2週間分の、反省文なんだよ、これ。ひと生徒8枚以上書く、ていうのがうちの委員長が決めた提出枚数だから、そこそこの量になっちゃうんだよねー」
「8枚?!多っ!」
「だよねー。俺もそう思う」
鬼畜だから弛くは無いだろうと思っていたけど……反省文だけでそこまで苦しめられるんだ。
「えっと、それでぇ……この反省文をどうしろと?」
「枚数のチェックと誤字脱字のチェック。あと、ちゃんと改善策が書かれているか確認して、こっちの用紙に生徒名と改善策を簡潔にまとめて?」
専用の用紙をヒラヒラと俺に見せて、机に置いた。
「このまとめた用紙は、最終的に委員長が見るから」
「おぉ……す」
「で、こっちは違反物リストね。一応、押収した日から1カ月後に持ち主に返すことになってるからその返却物をピックアップして欲しいんだ。物は、あの段ボールのどれかに入ってるから」
そう言って谷くんが指差したほうを見れば、そこそこ大きめの段ボールが3箱積み上げられていた。
これ全部押収物?わざわざ風紀に目をつけられそうなものを持ち込むなんて、皆ある意味勇者だな。
「今日は俺もここで仕事だから、分かんないところあったらすぐ聞いてね」
「あざっす。……えーっと……ここの席、使ってもいいすか?」
「うん、大丈夫だよぉ」
あの鬼畜への不平不満、仕事量に驚愕していても進まないので仕方なく隣の席に座り、反省文に手を伸ばす。
「ちなみにそこの席は、委員長の席だよー」
「!!!?」
微笑んでサラッと言われた一言に、俺は衝撃で椅子から勢いよく立ち上がった。谷くんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に変わって笑いだした。
「あはははっ!冗談!ごめんねっ!ぷふっ……あはははっ!」
「はっ……?冗談?」
「うちの委員長の席は、そっちの真ん中の席だから、安心して?」
「…………」
冗談になってないし、もし冗談の類いだったとしたら、くそつまんねぇ冗談だな。
今日はじめてこの人と絡むけど、もう腹立ってきた。
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