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「……あれ、冗談になってなかった?」 「…………」 「……怒ってるね?」 「そろそろ集中させてくれないですか」 「あー怒ってるー」 「怒ってないっす」 「怒ってるじゃーん」 普通だったら、自分が原因で怒らせてしまった人には、一言謝罪するか、これ以上逆鱗に触れないよう何も言わないか、そのどちらかだと思うのだが。この人は、関係なしに逆撫でしまくる人のようだ。 よく誰にも刺されずにこの歳まで生きてこれたな。 「別に怒ってませんよ。ただただ呆れてるだけっす」 その図太さに。 「ぷーっ、面白ぉ」 「……」 席に座り直し、書類の山の一番上の反省文を手に取り読み始める。谷くんは未だにケラケラ笑っている。 初対面の人をここまでからかえるって、この人マジでどんな神経してんだよ……つーか、風紀の人って基本Sっ気ある人しかいないわけ?玲麻は風紀に入って大丈夫だろうか……。 元々Sっ気ある奴だけど、輪を掛けてSになる可能性もあるのか? あの御方と同じような、鬼畜にでもなったりしたら…… 考えただけで寒気がして身震いした。 「そんなに怯えるほど苦手なの?うちの委員長のこと」 「…………」 どうやら今の身震いを勘違いされたらしい。 「おーい、成崎くーん」 「あの……」 「うんうん?」 「喋ってるとマジで終わらないんすけど」 「終わらなかったら、明日もここにおいでよ」 「は?」 「委員長も帰ってくるけど」 「何がなんでも今日終わらせます」 「あははっ!まじかぁ、ざーんねーん」 最低か。 「てか、正直、どうなの?」 「何が」 「ぇだから、うちの委員長のこと、どのくらい苦手なの?」 「…………」 「あれ?ねぇ?」 「…………」 「もしもーし、成崎くーん」 「…………」 「おーい!ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!!」 「うるっせぇっす」 「うわっ口悪。あはは」 大して気にしていなさそうな口調で笑う谷くんは、何か調べものをしながら喋り続ける。その光景が余計に腹立つ。 あんたと違って、俺は風紀の仕事をやったことがないんだ。ながら作業なんて出来ない。自分はサクサク仕事進めておいて、俺の足止めまでしてんじゃねぇよ。 「……ん?何?なんでそんなに睨んでんの?」 「……チッ」 「舌打ち??ウケるぅ」 ……疲れる。…………あ、この人と組まされたことも、あの御方の嫌がらせに含まれてたのか? 「……谷くんは」 「何?」 「鬼畜委員長のファンですか」 「へ?……いや?信者でもないよ?」 これは本音か? じっと谷くんの様子を伺う。 「風紀は、ルールを優先するから、人との関係性とか空気は別に気にしなくていいだろ?だから風紀やってるだけ。うちの委員長に遣えてる気はないよ」 その理由を聞いて、この人らしいなと府に落ちてしまった。良し悪しは別として。 「なんでそんなこと聞くの?」 「……俺が委員長様のことどう思ってるか知りたいんでしょ」 「うん。それはもうとっても気になる」 「だから、ファンかどうか確かめる必要があったんです」 「ふぅん?じゃあ答えてくれるんだ?」 「……答えたら、いい加減黙ってくれますか?」 「わぁお、交換条件ってやつだ?」 何故かウィンクしてきた谷くん。何から何まで謎な人だ。 「いいよ、少し黙るよ」 少しかい。……まぁ、この際それでもいいか。 「苦手じゃないですよ」 「え?そうなの?」 「はい。生理的に無理で、拒絶反応が出るだけです」 「えぇ!?」 「じゃ、答えたので静かにしてくださいね」 「待って待って!そんな言い方した人はじめてなんだけど!すげぇ!!」 「…………」 谷くんがなんか騒いでるけど、ここからは全無視する。約束は取り付けてるし、この人に構ってると俺の仕事が終わらない。 だから、これは正当な無視だ。 正当な無視などこの世に存在するのか分からないが、今だけは正当な無視とする。 ずっと何かを話してる谷くんは視界に入れず、漸く先程手に取った反省文を読み始めた。

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