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【1】穏やかな始まり……④

 田中がこの近くにある甘味処のパフェをどうしても食べたいというので、二人で店に入った。休日のせいか、中は家族連れやカップルで混雑しており、席がほとんど埋まっていた。和三盆と爽やかな抹茶の匂いがする。店員に案内されて奥の二人掛けの席に座った。 「ここの抹茶パフェ、マジで美味いんすよ。惣太さんも、ぜひ。――あ、これです、これ」  向かい側に腰を下ろした田中が笑顔でメニューを見せてくる。どうやらここは、お茶の専門店が経営している和カフェのようで、パフェ以外にもわらび餅やお団子、ほうじ茶のかき氷などもあった。田中の勧めで抹茶パフェを注文する。 「最近、カシラとどうですか? 相変わらずラブラブですか?」 「ラブラブ……うーん。どうだろう」 「カシラはそろそろ一緒に暮らしたいとか言ってましたけど」 「……うん」  惣太はそのことでも頭を悩ませていた。伊武は今すぐにでも結婚したいという。伊武組の本宅に離れを造り、そこで暮らす計画を立てているようだ。過去に本人から綿密な人生設計を見せられたこともあった。  別に嫌なわけではない。  伊武のことは大好きだ。ずっと一緒にいたいと思う。  これまでも、これからも、伊武以外に好きな人は現れないし、一生を共にしたいと思っている。本音を言えば自分の方がずっと好きなくらいだ。  ただ、まだ心の準備ができていない。  伊武のことが好きすぎて周りがよく見えていない。こんなに好きで、顔を合わせているだけでドキドキするのに、二十四時間一緒にいたら自分はどうなってしまうんだろうと思う。好きという気持ちを抱えているだけで精一杯の状況なのだ。  突然、『激務の整形外科医 急死!』の文字が頭に浮かんだ。違う。原因は過労の急死ではなくただのキュン死だ。  ――ああ、もう……。  一緒に暮らすとは己の全てを見せることだ。  自分は完璧な人間ではない。  休日は何もしないでカワウソのように両手を挙げ、裏向いて寝ている。当直明けの寝顔は多分、白目で相当なブサイクだ。  嫌われたりしないだろうかと心配になる。  家族にもまだ伊武との交際については話していない。特に自分のことを溺愛している真面目な兄にそれを告げるのが憂鬱だ。  惣太はもうしばらくの間、普通の恋人として過ごすことを望んでいた。 「惣太さん?」 「ああ。一緒にはいたいけど……嫌われたりしないか心配なんだ。ずっと一緒にいると誰だって欠点が見えてくるだろ? それが怖いんだ。伊武さんはああ見えてちゃんとした大人だし」 「え? 惣太さん、そんなこと心配してるんですか?」 「おかしいかな?」 「おかしいっていうか、ありえないんすけど。カシラが惣太さんのことを嫌うとか」 「……うーん。どうだろう」 「ないですって。絶対にないです。天と地が引っくり返ってもありえないっすよ。カシラは惣太さんにぞっこんですから」  田中が身を乗り出してくる。

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