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【1】穏やかな始まり……⑤

「昨日もそうでしたよ。カシラは惣太さんをスマホの待ち受けにしてるんですけど、暇があると惣太さんの画像を俺に見せてくるんすよ。『どうだ、可愛いだろう?』とか言いながら。『これが昨日の先生で、これが今週で一番可愛かった先生。先月のも、先々月のもあるぞ』とかって見せてくるんすけど、俺、その違いが分かんないんすよね。どれも同じに見えて。けど、カシラの中では明確な違いがあるらしくて、ベストショットを俺にチラ見せしてくるんです。けど、その画像をグループラインやインスタには絶対に上げないんすよね。なんか惣太さんを独占したいみたいで」 「……そ、そうなんだ」 「ですよ。この前なんか惣太さんの笑顔の写真をデジタルでは飽き足らずタペストリーにして部屋に飾るとか言ってましたよ。ベッドの上の天井に張ればいつも目が合うとかなんとか。そのうち、銅像とかも作るんじゃないですかね。はは」  笑い事じゃない。絶対にやめてほしい。銅像どころかタペストリーも全力で阻止する。 「とにかく、デロデロのメロメロなんで、嫌われるとか気にしなくていいっすよ。それより、あのヤバいくらいの独占欲の方を気にした方がいいっす。カシラは何かあるとすぐにジェラってくるんで」  田中は覚えてますよねと続けた。 「二人で行った『極甘天国』のツーショット写真。あれなんか俺の顔の所だけ上手にくり抜かれて、顔出しパネルみたいになったんすよ。観光地で写真を撮る、あの板みたいなやつです」 「知らなかった」  惣太は思わず吹き出した。仕事が細かい。  極甘天国は田中が勧めてくれたスイーツ食べ放題の店で、男二人で行ったら店員が記念にポラロイド写真を撮ってくれたのだ。田中が写真を持って帰ったのだが、そんなことになっていたとは知らなかった。 「惣太さんとお揃いのミニチュアストラップも、気がついたら本宅のドーベルマンに喰われてなくなってるし、俺はそっちの方が心配です」 「はあ……」  言葉が出ない。 「俺はもっと惣太さんと仲良くしたいんすけど、カシラがそれを許してくれないんで。あ、でも、また一緒にご飯食べに行きましょうね。いっぱい食べる惣太さんを見てると、なんか幸せな気分になるんで。そうそう、ミントティーとレモンタルトが美味い店が表参道にあるんすよ。絶対、一緒に行きましょうね」  田中オススメの抹茶パフェは驚くほど美味かった。茶葉の入ったアイスやムースはもちろん、抹茶のカステラやもちもちの玉露ゼリーも入っていて、緑茶の味が濃く、喉越しも爽やかだった。伊武にも食べさせてあげたいと思う。 「そうだ写真撮ってもいいですか?」 「いいけど」 「よかった。――あ、俺と一緒に、もうちょい顔近づけて」 「こうか?」 「いいっすね」  田中とツーショットを撮影する。惣太は自然と笑顔になっていた。同じように店内のあちこちでも楽しそうなスイーツの撮影会が行われていた。

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