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第49話
「学校でも色んな奴が声を掛けて来たんだけど鬱陶しくて。そんな時唯一静かな場所、何となく落ち着けるしついでに本でも読んで色々な知識を身に付けたかったから図書室に通い出してさー」
『うんうん』
「他の図書委員の人達は俺が図書室に入ると直ぐ気付くんだけど憂だけが全く俺に気付かなくて。ふふっ思い出すと何だか可笑しくて」
『な、何だよー!俺が鈍感だって言いたいんだろー?』
全くもってその通りだけど
「いつ俺に気がつくのかなーってちょっと楽しくなっちゃって憂がいる金曜日だけ通う事にしてさ。ゲームばかりしてると思えば寝てたり、やっと気づいたと思えばめちゃくちゃびっくりされたり……でも真面目に本片付けてるの見た時はああ、この子はきっといい子なんだろうなって思った。……実際いい子だった」
『ちょっいきなり何?そんな事急に言われたら恥ずかしいじゃんか!……なんか先輩変だよ』
「憂、俺はね……」
『えっ?』
じっと見つめられ、ギュッと腕を掴まれた
『痛っ』
「あっ……!ごめん、痣がある所だったね」
『大丈夫』
「ちょっとキッチンに行ってくるよ。適当にテレビでも観てて」
先輩はそう言うと立ち上がりキッチンへと向かって行った
何か言いかけてたみたいだけど一体何を言おうとしてたんだろう……先輩の表情が急に変わったからちょっとびっくりしちゃった
ってかキッチンに行くって。もしかしてまた何か手料理を作ろうとしてるのでは……今回は俺も出すって言ったのに
せめて何か手伝おうと思い俺もキッチンへと向かった
「……ん?どうしたの?」
『いや、何か手伝おうかなーって……や、広過ぎだろ』
カウンターキッチンってやつか?何?引き出しを開けると食洗機?あれはテレビでよく見るIHってやつか?なんだここは
「ありがとう、でも大丈夫だよ。ゆっくりしてて」
『まさか先輩んちで晩御飯とか思ってなくて……あ、それ玉ねぎ?剥くよ!』
目についた玉ねぎを手に取り皮を剥き……
皮を……あれ?
『先輩、玉ねぎがなくなった』
「ん?ちょっ剥き過ぎってレベルじゃないよ!玉ねぎはこの茶色い部分だけを剥けばいいんだよ」
『そうなの?よし!リベンジする!玉ねぎ……ってか何かめっちゃ目がしみるんだけど……やばっ涙が……何?何これ?めっちゃ痛いんだけど!!』
「……潤んだ瞳もいいね」
『グスッごめん……やっぱ向こうでテレビ観てる』
玉ねぎの毒気にやられた俺はあっさり退散した
あんな物を相手に料理が出来るなんてマジで凄過ぎる。玉ねぎはモンスターだ。きっとレベル20は超えてる
世の中の料理人と主婦達を尊敬します
ソファーに戻って来た俺はただひたすらボーッとしながらテレビを眺めていた
先輩は海外の資産家の孫……遺産……何となくさっきの話を思い返した
先輩が人を避けてるのって人間不信になっちゃったせいなんだよな……金で周りの人間が変わるなんて、なんか寂しい気がする
資産家とか遺産とか現実世界でまさか身近で本当にそんな事があるなんて思ってもみなかった
それが先輩だなんて
でも不思議とそこまで驚かなかったんだ
只者ではないとは思ってたけどガチで只者じゃなかったんだな
でも先輩は先輩だし、だから何だって感じだ
俺は先輩が何者でも気にしないよ……
「……憂?そろそろ出来るけど」
『……』
「憂?」
返事が聞こえなかったからリビングに向かいソファーに近付いて行ってみると、そこにはひっくり返って爆睡している憂がいた
「……無防備すぎ」
『んー……』
全く、この子は本当に……
「憂?ご飯だよ?」
『んんっ先輩……』
ぐっヤバい堪えろ
クローゼットにしまってあったブランケットを取りに行きそっと憂の体に掛けた
「…………」
さっきは自分の気持ちを思わず言いそうになった
まさか自分がこんなにもこの子の事を好きになるなんて思いもしなかった
きっと言ってしまえば困らせてしまうね
だから今はまだ我慢。憂が俺を受け入れてくれるようになるまで……
優しく頬を撫で、しばらく寝顔を見つめた
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