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第83話
「……はい……そうですか。……うん」
遠くの方から聞こえて来た話し声で徐々に目が覚めて来た
今何時……
もう朝の10時じゃねーかよ寝過ぎたし
体を起こしベッドから降りてぼーっとする頭のまま声のする方へ向かうとリビングで先輩が誰かと電話をしているみたいだった
「……わかりました。じゃあまた」
俺に気がつきそう言って電話を切ると直ぐにこっちにやって来た
「起きた?具合どう?」
『ん、ちょっと体がだる重い。誰と話してたの?』
「担任だよ」
『担任?』
「2週間の謹慎だって」
『謹慎……』
段々頭が起きて来た
「停学かなって思ってたけど、停学だと文書に出したり委員会に報告したりと色々面倒臭いらしいから。俺は今回初犯だから謹慎で済んだってさ」
『そっか、良かった。退学じゃなかった』
それを聞いた瞬間俺は胸を撫で下ろした
「だから大丈夫だって言ったでしょ?
……尾澤も俺も憂の名前は一切出してないから安心して。ただ大事な人を傷付けられて頭に来たから殴ったとは言ったけど」
大事な人……そう言ってもらえるとなんか嬉しいな
『ありがとう。でも大怪我させたんだよね?それなのに謹慎だけで済んだなんて凄いね』
「相手の親が俺と憂に謝罪したいって言ってるみたいなんだけど断ったよ。会ったらまた殴っちゃいそうだし会わせたくもないし」
『えっ謝罪?どういう事?逆じゃ……』
自分の子供が大怪我させられてるのに普通怒り狂うはずなんじゃ……
「自分が全面的に悪いと証言したみたいだよ。後、体育館倉庫の事も自白したらしいし……
担任から色々聞いたんだけど、相手の親は自分の息子の性癖に気付いていたみたいなんだ。
部屋にあった本もパソコンの中も携帯の中もそんな物ばかり見つけたみたいで昨夜直ぐに消去したそうだよ。復元できないように両方とも処分したらしいからきっと憂の写真も消えたはずだ。
……今も自分の顔を見て喜んでるんだって」
『うわあ……』
「異常性癖者を今まで何人か見た事あるけど……無理矢理は本当に腹が立つよね。まさかそんな人間が憂の近くにいただなんて」
『他にも?』
「関わった事はないけど海外にいた時にね……」
『そうなんだ』
俺もまさかあいつがそんな奴だなんて思いもしなかった。いつも本ばかり読んでたし物静かな奴だなって思ってた。喋った感じもただ無愛想なだけで別に普通だったし
人は見かけによらないな……
「取り敢えず座りなよ。まだ熱がありそうだから」
『熱?』
「覚えてない?夜中にうなされてたよ」
そう言われてみると何となく熱っぽいような……
だから今だに頭がぼーっとしてるのか
背中の痛みは昨日よりマシにはなったけどまだヒリヒリしていた
言われた通りソファーに座り、俺は深い溜息を吐いた
『はぁー……でも本当に良かった。マジ先輩が退学になったらどうしようってずっと思ってたから』
「俺がいなくなったら寂しい?」
『そりゃあ……ってか100%俺のせいだし』
「だから憂のせいじゃないってば」
『それは無理があるって!』
「頑固……」
『頑固じゃないし!!うっ……』
大きな声を出したら一瞬クラッとした
「ほらほら落ち着きなって。何か飲む?」
『うん』
「ミネラルウォーターは?」
『ミネ……水か。うん、それがいい』
「わかった」
先輩は冷蔵庫の中からボトルに入った水を持って来てくれた
流石先輩だ……
俺は生まれてこのかた金を出して水など買ったことがない
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