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第10話
「あっ、言い忘れてた。俺、美容師で、勤め先はこの近く。そのボサボサの頭をどうにかする気になったら声かけて。じゃ」
「……きみのアレをちょん切ってやる。待て、逃げる気か、戻ってこい!」
ものすごい剣幕で飛び起きたものの、哀しいかな、足がもつれる。尻餅をつき、なおも膝をにじらせたが、山岸はその間に軽やかな足どりで出ていってしまった。
ホテル代という意味なのだろう、数枚の紙幣がテーブルの上に載っていた。重石に用いられているものは、ころんとしたスノードーム。
「市販の品じゃ、なさそうだな」
スノードームを手に取って、しげしげと眺めた。ガラスの表面に商品名が浮き彫りでほどこされているあたり、それはジャムの空き瓶を利用して作ったものとおぼしい。
山岸が自ら? あの人でなしに限って、まさか。
ともあれ親指大の〝サンタクロースがトナカイを橇 に乗せて空を翔 る図〟というものに、とぼけた味がある。
試しに瓶を振ると、雪に見立てたパウダーがふわふわと舞って綺麗だ。
これをこしらえたのが本当に山岸なら、あれでなかなか少女趣味な一面があるとみえる。そう思うと微苦笑にほころんだ顔が、うってかわって引きつった。
とろり、と内腿を伝い落ちたものがあったせいだ。そういえば山岸が、コンドームが破れた、と独りごちていたような。
と、いうことは、この生あたたかい液体は精液……。
「妊娠する心配がないだけまだマシか……」
みしみしという関節を励まして、シャワーを浴びにいく。ホテルを出たら薬局に直行して湿布を買おう、と腰をさすった。
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