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第2章 後遺症はズシン、ズシンと

    第2章 後遺症はズシン、ズシンと  冬晴れの空を背景に、窓ふき用のゴンドラがゆっくりと下降する。作業員と目が合った。望月は会釈をすると廊下を足早に歩いた。  月曜日に社屋の窓がきれいになると、仕事にも身が入る。営業三課のフロアに入るころには、戦闘モードに頭が切り替わっていた。  大半の営業マンが得意先回りに励んでいるころとあって、フロアはがらんとしている。だが、用のある人物がスロースターターであることは調べがついている。  望月は眼鏡を押し上げた。案の定、席に残っていた中村という男子社員のもとにつかつかと歩み寄った。 「総務の望月です。再三にわたってお願いしている件について今いちど確認したいと思い、出向いてきました」 「忙しいんすよ。外回りに出かけるとこなんで改めてくれませんかね」  望月は手帳を広げることで、これ見よがしにコートを羽織る中村の出端をくじいた。 「今月もしかり。紛失した、インクがなくなったと称して中村さんは毎月ダース単位で新品のボールペンを要求し、こう言っては語弊があるけれど、せしめていきますね」    月別の使用量を折れ線ブラフで表し、それを書き記したページを中村に突きつけた。 「中村さん個人が使用するにしては異常に数が多いと怪しまざるをえません。とある文具メーカーの実験結果によれば、一本のボールペンで約五万メートルの線が引けたという例もあります。経費削減を旨とし、今後はボールペン一本といえども粗末にせぬよう、肝に銘じていただきたい」    ふてくされたふうに上着のボタンをいじるのを射すくめておいて、語気を強めた。 「たとえ一本百円のボールペンでも百本を無駄にすれば一万円の損失を会社に与えることになるのです。塵も積もれば山となる。損失を補填するしわ寄せがサービス残業という形でくれば、困るのはご自身です」  手帳を閉じて背筋を伸ばした。反論があれば、というふうに中村にうなずきかけると、 「おっしゃるとおり、反省材料っすね」  殊勝げに居住まいを正すそばから、 「みみっちいことを言いやがって、営業が契約を取ってくるから利益が出て、てめぇの給料の何分の一かは俺が稼ぎだしてるんだぞ」    憎々しげに吐き捨てた。

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