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第12話

 フロアを後にしな、望月は中村に冷ややかな一瞥をくれた。釘は刺した。中村が改心して、ちびた鉛筆にキャップをはめて使い切るような倹約家になることを期待しよう。  煙たがられるのは中間管理職の宿命だ。中村の案件にしても本来は主任レベルで対処すべきものなのだが、 「常習犯に、係長が一発ガツンと頼みます」  などと、泣きつかれたというか丸投げされたというか、要するに体よく厄介事を押しつけられた恰好だった。  磨きあげられた窓ガラスに幾分癒やされた。備品は使ったもの勝ち、という悪しき料簡の持ち主は徹底的にマークするに限る。もしもボールペンをガメて、どこかの店に横流しをしているのなら立派な業務上横領なのだ。  不正許すまじ。望月はエレベータを呼ぶボタンを力いっぱい押した。寝癖がどうしても取れなかった髪の毛がひと房、跳ねた。  新卒採用で入社して以来、総務部ひと筋できたオオトリ化学は医療機器メーカーで、オフィス街の一角に自社ビルを構える。  そして望月が属する総務部は、ひとことで言えば備品全般を管理する部署だ。扱う品目は、消しゴムから研究開発チームが用いる光学機器に至るまで多岐にわたる。  雑用係、と軽んじる向きがあるが、組織の潤滑剤的な役割を担う。男子社員の育児休暇制度の導入に寄与したのが総務部なら、社葬が営まれるさいに手腕を発揮するのも総務部だ。  さて、総務部に戻って雑用などをこなしているうちに昼休みになった。  三々五々とつれだってランチを食べにいく同僚をよそに、望月はいつものとおり社員食堂にひとりで行った。壁際のテーブルにぽつんと座り、日替わり定食の煮魚に箸を伸ばす。  まともな食事にありつくのは、金曜日の昼以来だ。筋肉痛と宿酔いのダブルパンチで、週末ははっきり言って死んでいた。  コンビニに行くのさえ億劫で、非常持ち出し袋に入れておいた缶詰のパンをかじって過ごしたのだ。

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