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第14話

 大の字に寝転がった視線の先で、蛍光灯の明かりを反射してきらめくものがある。  それはスノードームだ。人生の汚点を象徴するものを家に持って帰ったばかりか本棚に飾っておくのは酔狂にすぎるが、捨てるのは忍びない。それに観葉植物のひと鉢さえないほど殺風景だった空間に、ファンシーな小物が彩りを添えてくれるのは否めない事実だ。 「『コンタクトにするか眼鏡のフレームを替えればモテ期がくるかもよ』……か」  スノードームをひと振りして、パウダーがミニチュアのサンタクロースと戯れるさまに見入った。その間もネジがだいぶ馬鹿になっているせいで、眼鏡がずり落ちる。  眼鏡など近視の度が進んだときに新調すれば十分と、今かけている眼鏡にしてもかれこれ五年前に作ったものだ。だが山岸の意見を参考にするなら、洒落た眼鏡は婚活戦線において強力な武器になるらしい。  「ああ、くそっ、風呂だ、風呂だ!」  そうだ、山岸の面影など湯垢と一緒に排水口に流してやればすっきりするに違いない。  うっかり、やり逃げされるというヘマをこいたが、細胞は日々生まれ変わる。ひと月も経つころには、あの出来事は忘却の彼方だ。  火曜日、水曜日とひたすら仕事に没頭した。しかし些細なことにカリカリしがちで、 「グロスとダースを間違えて発注するとは言語道断。算数からやり直したまえ」  ミスをした部下をつかまえてハウツー本にあった〝悪い叱り方〟をやらかす始末。ことほどさように、男の純情を踏みにじられた後遺症は自覚している以上に重かった。  木曜日になると苛立ちが頂点に達し、負のオーラを放つ望月を指して、こういった類いの憶測が乱れ飛んだ。  曰く「結婚詐欺に遭ってケツの毛までむしり取られた」、「ありえる。カタブツ係長って逆にカモりやすそう」、「女性に免疫なさそうだもんね」、等々……。  飲み会で肴にされているとも知らず、望月はコピー機を修理する手配をしながら、満員電車で揉みくちゃにされながら考える。  純然たる被害者である自分には(イッたことには目をつぶるとして)、山岸に文句を言う権利があるはずだ。

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