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第17話
いかん、毒されている。望月は頭をひと振りし、対する田所は人差し指を立てた。
「人物を特定できるヒントつきで、誰々は男とネた、とSNSで発信するおバカさんがいるから相談する相手は吟味すること。その点、お知り合いの方に忠告したいね」
大きくうなずき、せかせかと眼鏡を押し上げた。〝お知り合い〟に含みをもたせたあたり、望月自身の話だとおそらく察している。
「経験論で言うと。知人が一夜をともにした相手はゆきずりの男性なんだね? 寝ても覚めても彼のことを考えてしまうようなら、ラブが芽生えた可能性があるね」
「慰み者にされてラブなど芽生えっこない! ……失敬、知人の意見を代弁してみました」
鹿爪らしく言いつくろい、身を乗り出したはずみになぎ倒したカップを起こした。見れば田所は噴き出しそうになるのを懸命にこらえている様子で、口許がひくひくしている。
その田所の上着の胸ポケットでスマホが振動した。彼はタッチパネルを一瞥すると、口をへの字にひん曲げた。
「ワンマン部長から緊急ミーティングの招集がかかった。ばたばたして悪いね、お先」
「今後も何かと協力をお願いすることと思います。よろしくおねがいします」
最敬礼で見送ると、
「望月ちゃんて一見、とっつきにくいけど意外にヌケててギャップ萌えを刺激するんだな。こんど飲みにいこう。悩み多き知人にアドバイスしたげるし俺は紳士だから安心しなよ」
偶然なのか故意にそうしたのか、尻たぶに手が触れた。
さて、かつて〝花金〟と謳われた金曜の夜の退社風景はにぎやかだ。デートだ、忘年会だと浮かれる同僚にひきかえ、望月はひとり淋しく家路をたどる。コートが寒風にはためくと、無性にやるせない。
会社を出て最寄りの駅の改札をくぐるまでの間に、何組のカップルとすれ違ったことか。電車に乗れば乗ったで、クリスマスデート特集と銘打った雑誌の中吊り広告に心がささくれ立つ。
世界の総人口のおよそ半数は女性で、それに高望みをしているわけでもないのに、なぜ自分は女性に縁遠いのだろう。
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