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第19話

「……ぅ、くぅ……っ!」  あっという間に達した。記録破りの量と濃さだが、すっきりするどころか、むしろ物足りなさを覚える。  後ろが疼くのだ。  ひとまず後始末をすませ、天井を睨んだ。前回手淫におよんださいは、正常に勃ち、しかるべく刺激を与えたのちに正常に射精に至り、しばし余韻にひたったあとは正常に熱がひいた。  あれから我が身に起きた大きな変化といえば、言わずと知れた例の一件だ。  跳ね起きた。寝室をうろうろしたすえに、ある仮説を立てるに至って真っ赤になった。  ひょっとして、ひょっとすると、某所に性感帯が分布しているのが影響しているのか。奥の奥までこじ開けられて、毒性の強い快感に病みつきになったせいで、前への刺激のみでは満足できないふうに体質が変わったのか。   裏を返せば山岸を欲している、とか……?   ぶんぶんと首を横に振るはしから、浅ましく喉が鳴る。  腹這いになって、こころもち腰をあげた。仮説が正しいか否かを証明したければ、論より証拠で指を挿入してみればいい。   いかん、いかん。結婚したあかつきには妊活に励むだろう独身男性として、越えてはならない線がある。  だが、と尻の割れ目に沿って指を這わせた。やせ我慢を張るのは躰に毒だし、窄まりをつつく程度なら支障はあるまい。  ギャザーに指が触れたせつな、あわてて手を引っ込めた。危険ドラッグの錠剤をひと舐めしたばかりにジャンキーにまっしぐら、という例は枚挙に(いとま)がない。それと同じだ。  教訓、下心がある人物の前でゆめゆめ泥酔することなかれ。  日にち薬の効用で山岸の面影が薄れることを願い、布団を引っかぶった。

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