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第3章 ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる

    第3章 ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる  無趣味な独身男の休日の午後は、のろのろとすぎていくものだ。  望月もご多分に漏れず、そうだ。掃除と洗濯をすませて、田所の談話に基づいた意見書をまとめ終えると、あとは昼寝くらいしかやることがない。  ストレスと運動不足をいっぺんに解消するために、温水プールに泳ぎにいくことにした。区の施設だ。納税したぶんの元を取ろう。  交差点に差しかかったところで、歩行者用の青信号が点滅しはじめた。走れば渡りきれるだろうが、もしも転んだらいい恥さらしだ。  点字ブロックの手前で立ち止まった。望月を追い越した老婆がよたよたと道路を横断するのを待って、車の列が動きだした。  おれは、いつもこうだ。ぼやき、頭を搔きむしった。慎重にいきすぎるのが裏目に出て結局、損をする。  今みたいな場面で、歩行者優先と堂々と通りを突っ切り、適度にガス抜きができる性格なら、山岸のような厄病神を引き寄せることもなかったかもしれない。  二時間あまり泳いでも気が晴れるどころか、髪の毛にしみついた塩素の臭いに辟易する。 帰宅して、では次回の婚活パーティーに備えて想定問答集をこしらえておくのが建設的な案なのだが、気乗りがしない。カラスが鳴き、焼き芋屋のトラックがマンションの前を通りかかり、気がつけば黄昏時だ。 「床屋に寄ってくればよかったな……」  それは、ほんの出来心だ。退屈しのぎだ、と自分に言い聞かせてスマホをタップした。  山岸曰く、ラブホテルの「近くの店に勤めている美容師」。  どうやら、あの界隈は美容院の激戦区だ。地図アプリで検索した結果、条件に該当する店はホテル街を中心とする半径五百メートルの圏内に七十二軒もひしめいている。  山岸を捜す手がかりは、ガラスの靴ならぬ「透真」という印象的な名前のみ。あいうえお順のリストを作成し、景気づけに発泡酒を呷ってから〝アーバント〟なる店に電話をかけた。 「お忙しいところ恐れ入ります。そちらのスタッフに山岸透真さんとおっしゃる男性の方はいらっしゃいますか……」  いないと、すげない返事にがっかりした。一発目でビンゴといくほど世の中は甘くない。気を取り直して、次の候補に電話をかける。

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