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第22話
まず客が美男美女ぞろいだ。スタッフにしても採用条件のひとつが容姿端麗であることなのかもしれない。
色鮮やかなタイルが随所にあしらわれ、貴公子然としたボルゾイが看板犬を務める、というぐあいにきらびやかな空間にあって、望月は孔雀の群れに迷い込んだ雀のごとくみすぼらしい。
女性スタッフが受付にやってきた。材料屋の飛び込み営業か、といいたげな値踏みをするような目を向けられて望月はへどもどした。
そこに山岸が現れて、スタッフに耳打ちした。
「こちらの新規のお客さまは俺がカットとカラーを担当するんで、シャンプーよろしく」
「カラーは受付時間をすぎています」
「いいの、店長の許可はとってある」
アシスタントに先導されてシャンプー台に移動するさいも、セット台に案内されるときも望月はへっぴり腰で、失笑を買うほどに浮きまくっていた。
雑誌を勧められて気もそぞろで受け取る。このテの店の料金は、きっと桁外れに高い。持ち合わせで足りるかどうか、心配になってきた。
山岸は、といえば。あちらの客と談笑しながらドライヤー片手に仕上げにかかる。かと思えば、こちらの客の髪にロットを巻くかたわらアシスタントに指示を与える。何人もの客の対応を並行してこなしてのけるあたり、売れっ子の美容師のようだ。
「お待たせしました。本日、担当させていただく山岸です……って一応、礼儀上ね」
山岸が背後に立ち、鏡越しに片目をつぶってみせた。
茶目っ気たっぷりの仕種は曲者だ。心音が店中に響き渡りかねないくらい動悸がして、望月は拳を握った。
平常心、平常心、と心の中で唱えながら鏡を介して山岸を睨み返す。他ならぬおれが生き証人だ。おまえの正体はレイプ魔で、今さら行儀よくふるまっても無駄だ。
と、山岸が悪戯っぽく目をきらめかせた。
「連絡もらって思わず万歳しちゃって、お客さまにもスタッフにもひかれたね。望月さんにもういっぺん会いたくてさ。けど会社に電話したら迷惑だろうから自粛してたんだ」
望月は真一文字に口を結んだ。会いたかったとは、どういう意味で会いたかったのだ。
レイプ魂が疼いたときにうってつけの獲物のことを思い出して、もういっちょコマしてやろうとか、そういうことか。
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