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第24話
ふたりっきりになると、題するなら〝凌辱の巻〟を否が応でも思い出す。鏡の中で目が合うたびに心臓が跳ねて、この調子では髪を切り終える前にぽっくり逝きかねない。
刷毛が髪の毛をすべるさいには必ず顔がひきつる始末だが、自意識過剰と思われたらくやしい。
そうだ、もしも山岸が怪しいそぶりをみせることがあれば、すかさず鋏を奪って喉元に突きつけてやればいいのだ。
就職活動中にオオトリ化学の最終面接にこぎ着けたときより緊張している。望月はそう思い、ケープの陰で汗ばんだ掌をぬぐった。来るんじゃなかった、と今さらめいて悔いた。
「バージンヘアがどう変わるか、乞うご期待。コーヒー淹れてくるからのんびりしててよ」
山岸が席を外したとたん、ぐったりと背もたれに寄りかかった。予約してあったとはいえ、それは山岸の独断でなされたものなのだから、すっぽかしてもかまわなかったのだ。ホテル代を返却するにあたっても、美容院気付で現金書留を出せばすんだことだ。
万が一、山岸と街角でばったり会っていたならば全速力で逃げていたに違いない。なのに狼の巣穴に自ら飛び込むに等しい愚を犯す。この店にわざわざ足を運んできた理由が謎だ。
コーヒーが供され、山岸がセット台の横に丸椅子を置いて腰かけたが、タヌキ寝入りを決め込んで話しかける隙を与えなかった。
タイマーが鳴った。いちどシャンプーするとのことで、望月は席を立ち、ワゴンにつまずいて、すばやく抱きとめられた。
感電したように、ぱっと身をもぎ離した。びくびくしすぎだ、と唇を嚙みしめた。
ことさら大股でシャンプー台に移り、背もたれが倒されると、ジーンズの前立てがちょうど耳の横にくる。
その内側に息づく肉の凶器は、すらりとした体つきに反して極太で、カリが発達していた──。
唾が湧き吞み込めば、気管に入ってむせた。
「あれ? 風邪気味だったりする?」
「いや……喉がいがらっぽいだけだ」
「空気が乾燥してるもんね。湯加減はどう」
これでいいと、ぶっきらぼうに答えたのが一変して目を瞠った。最初にシャンプーしてくれたスタッフより格段に上手い。絶妙の力加減で頭皮をこする指に、自然と頬がゆるむ。
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