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第4章 墓穴の深さは数万メートル!?

    第4章 墓穴の深さは数万メートル!?  今朝は、やけに女性からの視線を感じる。それも日ごろのぺんぺん草に向けるのと大差ないものとは違い、熱っぽい視線を。  普段と同じ、くたびれたコート姿という通勤スタイルのどこに、注目を浴びる要素が含まれているのだろう。それは毎朝の風景だが、望月はオフィス街を埋め尽くす人波に揉まれながら、ひっきりなしに眼鏡をいじった。  美容院の帰りに深夜まで営業している眼鏡屋を見つけて飛び込み、新しいフレームにレンズを入れてもらった。以前の眼鏡とはフレームの幅が異なるためにかけ具合がしっくりこないが、センスがいい、悪いという点では山岸は段違いに上だ。望月に似合うものを見立ててくれたのだろう、はずだ。  ちなみに髪をセットするさいのコツは、山岸曰く「ワックスつけてちょいちょい」とのこと。  これまで手ぐしで撫でつける程度ですませてきた望月には難易度が高い。それでも、精いっぱい教わったとおりにやったつもりで、今朝は寝癖もついていない。  なのに女性とすれ違うたびにじろじろと見られるということは、ダサ男のくせしていっちょ前の髪型をしてチンドン屋みたいだ、と顰蹙(ひんしゅく)を買っているのだろうか。  伏し目がちに会社の通用口を抜ける。すると無愛想なことで有名な清掃のおばちゃんが、いつになくにこやかに会釈をよこす。  宝くじでも当たったのか。そう思い、エレベータに乗った。嗤われる、あるいはスルーされる。同僚の反応やいかに、だ。  自分の席をめざして総務部のフロアを横切るにつれて、あれ誰? と囁き交わす声がさざ波のように広がっていき、一拍おいてどよめきが起こった。なかでも、お調子者の男子社員が大げさにのけ反ってみせた。 「係長って隠れイケメンだったんすね。衝撃の新事実っす」 「お世辞を言っても勤務査定は変わらないぞ。それより昨日頼んだ発注書はできてるのか」 「なんだ、中身は陰険係長のまんまか」  なあ、と男子社員は賛同を求めたが、 「悪口をいう男ってサイテー」  総スカンを食らいかねない雲行きに、たじたじとなった。

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