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第28話
望月にナルシストの傾向がまったくないために齟齬 をきたすのだ。もみあげを細く残しつつも両サイドは刈り上げる寸前まで短くして、さらにトップは自然に流す感じの髪型に男の色香が漂う。
朝礼がすむのと相前後して、全社員に配る来年の手帳が納入された。納品書に誤りがないか確認したあとで、各部署の人数分の冊数ごとに束にする必要がある。仕分け作業の手伝いをつのれば、志願者がふたりも現れた。
星占いによれば、おおかた今日のラッキーパーソンは〝雑用を進んで引き受けること〟なのだろう。望月は独り合点すると、ジャンケンに勝った女子社員とともに倉庫に行った。
ところが珍しいことに、ふだんは事務的に用件を伝えてくるのみの女子社員が、にこにこと、しかもしきりに話しかけてくる。
「係長は普通にお酒を飲みますよね。なる早でセッティングするんで合コンしませんか」
「しゃべりながらだと数えまちがうぞ」
なつかれてもケンもホロロにあしらって、せっかくの友好的ムードを自らぶち壊す。そのパターンを繰り返しているうちに、昼休みになった。
すると異なことに、女子社員のグループに近所のパスタ屋に誘われた。
望月は眼鏡を押しあげた。部下と親睦を図る意味ではいい機会だが、化粧品の匂いにむせ返るなかでナポリタンを食べる図、というのは、ぞっとしない。
「悪いが、今日は肉をガッツリの気分だ」
結局すげなく断って社員食堂に向かう途中、田所と行き合った。流れで同じテーブルに着くと、田所は開口一番こう言った。
「見違えたよ。望月ちゃんの魅力を最大限に引き出したのは、どこの店の美容師だい?」
望月が店名を答えるか答えないかのうちに、
「その美容室、予約がとれないことで有名なんですよ。どんな裏技使ったんですか」
女子社員がわらわらと集まってきた。
望月は、むっつりとチキン南蛮にオーロラソースをからめた。店の雰囲気はどうでした、だとか、その店が行きつけらしい俳優の誰それは来ていませんでしたか、などと質問攻めにされては、おちおち味噌汁も飲めやしない。
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